東京ご近所探訪 Vol.37

本とカレーの街「神保町」に、大人たちが惹かれる理由とは?

2021年3月からスタートした本連載「東京ご近所探訪」は、今回で最終回。取り上げた街は、実に38を数える。

「街への愛が、街を作る」。今回もそんな住人たちの“街愛”をお届け。

ラストを飾る街は、本とカレーでよく知られる、神保町!


東京の街の個性を徹底調査する連載「東京ご近所探訪」。過去にご紹介した街も、要チェック!



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今月のエリア【神保町】

神保町のマップ


本連載のラストを飾るのは、本の街、神保町。世界一の古書店街として知られている他、出版社や印刷所も多いエリアだ。

都営新宿線と都営三田線、東京メトロ半蔵門線の神保町駅を中心に、北は水道橋や御茶ノ水、東は小川町と淡路町、南は竹橋、西は九段下など周辺の駅までも徒歩圏内。

住所で区切ると、靖国通りの南北に広がる千代田区神田神保町1〜3丁目のエリアだが、スポーツ用品店や楽器店、レコード店などが連なる駿河台から小川町、御茶ノ水にかけてのエリアとシームレスにつながりながら賑わってきた。

明治から文教地区として発展してきた神保町

神保町の街並み

神保町エリアは、全域が商業地域に指定されている。学校や企業が多く昼間は賑わいを見せるが、夜間人口は少ない。大規模な再開発は行われておらず、昭和の風情を残す街並みに郷愁を覚える人も。皇居までも徒歩圏内


江戸時代、江戸城にも近いこの地には各藩の武家屋敷が集まっていた。明治に入ると、武家屋敷跡に学校ができ、教育機関、研究機関が集まる文教地区として発展。

研究者の資料となる書籍を扱ったり、学生が使い終わった教科書を買い取って下級生向けに販売したりする店が増え、古書店街になったのだ。

神保町『文房堂』の外観

飲食店や古書店が並ぶ「神田すずらん通り商店街」。駿河台側の入口近くにある明治20年創業の画材店『文房堂』。レトロなファサードが人気


明治期から続く書店が残っているのは、第2次世界大戦の際、貴重な書籍を消失させないために米軍が空襲の対象から外したから、という説もある。

大正13年創業の老舗『スマトラカレー共栄堂』の3代目店主、宮川𣳾久さん曰く「最近は“カレーの街”と言われたりもしますが、我々の商売は、昔も今も古書店あってこそ。昼と夜の間に休憩を挟まず通し営業をしている飲食店が多いのも、本を見て歩いて、おなかが減ったらサッと食事をしたいというニーズがあるからです。本を買ったら喫茶店でコーヒーを飲みながらおしゃべりをしたり読書をしたり、という行動パターンは昔から変わりません」

『スマトラカレー共栄堂』

神保町『スマトラカレー共栄堂』の外観


靖国通りの北側に面したビルの地下1階にある老舗カレー店。

神保町『スマトラカレー共栄堂』の「スマトラカレー ビーフ」


20数種類のスパイスを1時間ほどかけてじっくり炒ってから、野菜と合わせてじっくり煮込み、小麦粉を一切使わずに仕上げた真っ黒なカレーは、甘みと酸味、香りがふわっと抜けたあとにじんわりと辛みが寄せてきて、ビターな風味が広がる唯一無二の味わい。

「スマトラカレー ビーフ」1,500円。



昭和までは、古書店に教科書や参考文献を探しに来る学生も多かったが、本という存在がより身近になると訪れる人の年齢層は高くなった。しかし、最近は神保町にやってくる若い人が再び増えているという。

「昭和レトロ」ブームで純喫茶の人気が再燃し、『ラドリオ』『ミロンガ ヌオーバ』『神田伯剌西爾』などが軒を連ねる神保町が、若者から注目を集めているのだ。

神保町の交差点からすぐの路地で1955年から営業を続ける人気喫茶店『さぼうる』の伊藤雅史代表にお話を伺った。

「神保町は“通過点”の街。大学時代や予備校時代に通っていた方が多くて、“何十年ぶりかに来たけど、変わってないなぁ”と昔を懐かしむお客さんも多いんです。

ところが、コロナ禍で神保町の飲食店事情は大きく変わりました。古いお店が次々に閉店したり移転したりする一方、古い建物をリノベーションした立ち呑みや創作料理の店が増えています」

『さぼうる』

神保町『さぼうる』の内観


周辺の大学に通う学生や出版社に出入りする人たちに愛されてきた喫茶店。

南国っぽさを感じさせるエクステリア&インテリアで、店内は中2階と地下の2フロアにわかれている。

神保町『さぼうる』の「ピザトースト」


『さぼうる』のメニューは軽食とドリンクのみで、厚切りの「ピザトースト」(850円)が人気。

ナポリタンやビーフカレーなど食事メニューは、隣接する姉妹店『さぼうる2』で楽しめ、こちらも日々賑わいをみせている。

コロナ禍以前は9:30のモーニングから夜のバーまで営業していたが、現在は日中のみの営業。



B級グルメから、焼き鳥の『神保町 五木田』、『アルテレーゴ』などの、食通が通う店までと、ラインナップは実に多様。

神保町の変化は感度の高い人々たちにしっかりと響いている。

大人がひとりきりでも気楽に楽しめる街

神保町『小宮山書店』の内観

アート、ファッション、デザインに特化した『小宮山書店』。外国人客も多く訪れる


神保町には140軒を超える古書店があるといわれているが、ネット書店の台頭によって、古書店の営みも旧来のスタイルから少しずつ変化している。

アートやデザイン、ファッションを専門に扱う『小宮山書店』の小宮山慶太代表は、古書店を続けながら現代のアーティストを紹介するギャラリーをオープンさせた。

「古書店は、持ち込まれた古書を訪ねてきた人に売る“待ち”の商売。専門的な知識と経験が必要なので店舗を大きくするのは難しい。

古書店がなくなることはないと思いますが、“文化”として積極的に発信していきたいんです」

海外からの注目度も高まり、新たな人の流れが生まれた。

小規模な店を中心に「看板建築」と呼ばれる昭和初期の様式が数多く残っている神保町は、ノスタルジックな街並みも人気だ。

神保町に生まれ育ち、13年前から地元で商いを続ける『STYLE'S CAKES&CO.』のオーナー岩崎 修さんは「街の風景は子どもの頃からほとんど変わっていません。歴史があって、庶民的で、本や音楽、建築などの文化がある。ただ、生鮮食品の小売店やスーパーがなくなってしまったので、不便さを感じることもありますね」。

『STYLE'S CAKES&CO.』

神保町『STYLE’S CAKES&CO.』の内観


静かな路地裏にあるタルトとパイ、キッシュの専門店。明治大学下の表通りで15年間カフェを営み、13年前に移転してきた。

生まれてからずっと地元・神保町で暮らすオーナーの岩崎さんは「あまりにも身近過ぎて、神保町の良さがよく分からない」と笑う。

ショーケースに並ぶのは、素材を厳選し丁寧に焼き上げた12種類ほどのスイーツと2、3種類のキッシュ。

神保町『STYLE’S CAKES&CO.』の「いちごのタルト」と「チョコナッツタルト」


バターの風味が豊かなタルト生地と甘さ控えめなクリームが美味しい「いちごのタルト」(700円)、くるみやマカダミアナッツなどナッツたっぷりの「チョコナッツタルト」(550円)などがオススメ。テイクアウトのみ。



古書店、楽器店、スポーツ店が連なる靖国通りの「靖国通り商店街連合会」会長も務める老舗不動産店『水戸興産』の稲垣秀明社長は「明治や大正から続く店もありますし、地元愛は強い地域です。しかし、後継者、建物の耐震強度、昨今の地価と建築費の高騰など悩ましいことも多く、街並みを維持していくのは簡単ではありません」と語る。

神保町『矢口書店』の外観

靖国通りの南側には古書店がずらり。白山通りを挟み、九段下方面の『矢口書店』界隈に古い書店が集う


住宅事情については「“賃料が高くても便利な場所に住みたい”という単身者向けのワンルームが多くて、ファミリー物件は本当に少ない。ニーズはあるので、情報が公開される前に決まってしまうことがほとんどです」と稲垣さん。

29階建てのタワマン「東京パークタワー」の外観

2003年、書籍の卸問屋跡地に完成した29階建てのタワマン「東京パークタワー」。60~80平米の2LDK、3LDKの賃貸価格は35万~50万円。売買だと全室1億円超、100平米で3億5,000万円の物件も


昔からの街だからこその葛藤を抱える神保町だが、魅力を感じ、新たにやってきた人もいる。セレクトショップ『vekt』のオーナー、山本さちこさんもそのひとり。

表参道で働いていたが、15年前、独立する時に選んだのは神保町だった。

「青山は開発が進み過ぎて味気なくなってしまいました。神保町は文化の香りが強い街で、大人がひとりで楽しめます。

裏路地にも古い建物を活用した個人店があって、歩いているだけでも楽しい。青山時代からのお客さんも、神保町にハマッている方が多いですよ」

『vekt』

神保町『vekt』の外観


神田神保町1丁目は静かな路地に個性的な個人店が点在している。

インポートもののセレクトショップ『vekt』も「こんなところに!?」という場所にあるが、不思議と落ち着く空間で長年のファンも多い。



神保町は大きな変革期を迎えている。2022年の夏に「岩波ホール」が閉館し、今年の2月には「山の上ホテル」が休業、年末には「学士会館」も休業する。

「神保町のアイコンになってきた場所がなくなっていくのは寂しいですね」

そう話してくれた『スマトラカレー共栄堂』の4代目、宮川悠太さんは「一度は家を出たけれど、神保町で愛されてきた唯一無二の味をなくしたくない」と5年ほど前に店を継ぐことを決めた。

オフィスビル「神保町三井ビルディング」の外観

「東京パークタワー」の東側に隣接するオフィスビル「神保町三井ビルディング」


神保町を愛してきた人たちが、古き良き街を守りながら、新たな歴史を紡いでいこうとしている。

神保町がどのように変化していくのか。次代を担う人たちへの期待度は高い。

地元の不動産店に聞いた!街の基本スペック


・賃貸相場:(1LDK 40平米目安)
 18万~21万円
 ファミリー物件は極めて少ない

・販売相場:
 中古マンション 60平米 9,500万~1億5,000万円

・神保町エリアの人口:
 約3,300人

◆協力してくれたのは◆
店名:水戸興産
住所:千代田区神田神保町2-4 水戸興産ビル
TEL:03-3262-7777

神保町で安定の人気店


昼とは別の顔となる夜の神保町。数あるお店の中から、街に根差し、住人にも愛され続ける人気店をご紹介。

神保町を代表する中華を、カフェ気分でお洒落に使う
『SANKOUEN CHINA CAFÉ&DINING』

神保町『SANKOUEN CHINA CAFÉ&DINING』の内観

アジアンリゾートをイメージしたカジュアルで落ち着ける空間。席間も広く、ゆったり食事を楽しめるため、女性のひとり客も多い


1956年創業の『餃子の店 三幸園』をはじめ、焼肉、イタリアンなど6店舗を展開する三幸園グループの中華ダイニング『SANKOUEN CHINA CAFÉ&DINING』

チャーハンや麺類のような大衆的なメニューにはじまり、フカヒレ、北京ダックなどの高級逸品料理、3,850円~14,800円の多彩なコースで、日常使いから会食、宴会、接待まで多様なニーズに応える。

「四川、広東、北京など中国各地の調理技法を使い、バラエティーに富んだメニューが楽しめるのが三幸園らしさ。特にコースは、旬の魚介や野菜を使いながら季節感のある構成にしています」と齋藤 輝(あきら)料理長。

神保町『SANKOUEN CHINA CAFÉ&DINING』の「伊勢海老の香り炒め」


「伊勢海老の香り炒め」。

春は雲丹や三陸の平貝などを合わせ、ふくよかな甘みと軽やかな塩味が贅沢に広がる。

神保町『SANKOUEN CHINA CAFÉ&DINING』の「前菜盛り合わせ」


「前菜盛り合わせ」は、よだれ鶏、牛のたたき、鮭のスモークなど6~7品を季節替わりで。

料理は11,000円のコースより。

肉感ジューシー食べ応え満点!

神保町『SANKOUEN CHINA CAFÉ&DINING』の「大餃子」

12cm、60gの「大餃子」(4個 620円~)は定番の一品


名物の「大餃子」は『餃子の店 三幸園』とも異なるレシピで、「三幸園派とSANKOUEN派に分かれる人気メニュー」といわれるほどの好評ぶり。ぜひ食べ比べを。

神保町『SANKOUEN CHINA CAFÉ&DINING』の「果実ごろごろサワー」


「果実ごろごろサワー」940円。

SANKOUEN CHINA CAFÉ&DINING(神保町) | デートに使える東京のレストランはグルカレで予約

街になじむ古民家で、赤身肉を豪快にいただく贅沢
『森のブッチャーズ』

神保町『森のブッチャーズ』の外観

レトロな石造りの外観。木枠のガラスの引き戸と紅白のテントがノスタルジックな雰囲気を醸し出す


地下鉄の神保町駅A1出口から徒歩2分。オフィスビルが多いエリアにある『森のブッチャーズ』は、隠れ家感のある古民家ビストロだ。

資材置き場だった建物を古民家風に改装。

神保町『森のブッチャーズ』の内観

古材を活用しながらリノベーションしている。カウンター席から見えるキッチン奥のレンガの壁も印象的だ


店内は、1階はカウンター、2階はテーブル席、3階は座敷とフロアによってまったく異なる雰囲気が楽しめる。

神保町『森のブッチャーズ』の「フラップミート(カイノミ)」

肉の旨みを炭火でギュッと閉じ込めた「フラップミート(カイノミ)」460g 3,200円。豊富にそろう赤身肉メニューは必ず頼みたい


炭火で焼いた赤身の塊肉やラム、ポークなどをワインと一緒に豪快に頬張る。

肉料理も野菜料理もとにかくボリュームがあって、見た目のインパクトがすごい。運ばれてきた瞬間にテンションが上がること間違いなし。

前菜もメインもガツンと大盛り!

神保町『森のブッチャーズ』の「アボカドのぬか漬けと生マッシュルーム」


一夜漬けのアボカドに生のマッシュルームをたっぷり盛った「アボカドのぬか漬けと生マッシュルーム」830円。

神保町『森のブッチャーズ』の「肉屋のポテトサラダ」

スモーキー&クリーミーな「肉屋のポテトサラダ」(750円)は、ダイナミックな見た目の人気の一品


「気取らずに塊肉を食べられるので、肉好き、ワイン好きの女性グループも多いんですよ」と西山 悠店長。

ワインがグラス500円~、ボトル3,000円前後とリーズナブルなのも嬉しい。

森のブッチャーズ(神保町) | デートに使える東京のレストランはグルカレで予約

担当編集・船山が街の酒場の様子を現地リポート!
~神保町ってボルドーを愛する街だった~


本とカレーの街。だが、今回そこに新たなタグ「#ボルドー」が加わった。

靖国通り沿いにある、フランス国旗が目印の『L'EPIQUE』はボルドーに特化したワインバーだ。

神保町『L'EPIQUE』の外観

『L'EPIQUE』はカウンター8席のみ。インポーター「L'Astre」の直営店


16時の開店を狙って訪れると美人ソムリエの川中さんがお出迎え。

「近隣の書店の重鎮の皆様が来てくださるので、この時間から開けているんです」と笑いながら、ボルドーの魅力を力説。

神保町『L'EPIQUE』のボルドー・クレレ」

ライトな色合いの「ボルドー・クレレ」


ワインラバーなお客様が次々と来店し、気づけばみんな仲良しに。

なんと某書店の会長様もお越しになり、神保町クイズで盛り上がる。結果、そこで出会った方々と2軒目、3軒目へと……。

神保町『パンとボルドーワイン レピック』のスタッフの方々

2軒目は姉妹店『パンとボルドーワイン レピック』へ。イケメンスタッフさんを激写!


神保町の皆様の温かさを知った1日となった。

編集部員・船山壮太


初めて『ボンディ』を食べた時の衝撃……忘れられません。B級グルメの充実度は東京トップクラスでは!?

▶このほか:横浜デートの〆は話題のスイーツバーへ!会員制のパフェ×ワイン×カクテルで特別な夜を

東京カレンダー2024年6月号の表紙

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