2024.04.07
表紙カレンダー Vol.112コメディ、アクション、作家性の強い社会派……と次々に新境地を開拓し、いまや日本を代表する女優に上り詰めた長澤まさみさん。
そんな彼女と、鶏を炭火ではなく、あえて“薪火”で焼き上げる、いま話題の焼き鳥店へ。
長澤さんが出演する最新映画『四月になれば彼女は』について、自身の“いま”と“これから”について、たっぷりと語ってもらった。
「焼き鳥はよく食べます。鶏肉は体質的にも私に合うみたいなんです」
「皆さんも一緒に食べましょうよ」
食事シーンの撮影が終わると、長澤さんからスタッフに声がかかった。
さすがは主演を務める女優。気遣いの人である。だが、ご本人に言わせると、そういうことではないらしい。
「食いしん坊なだけです。あんなに美味しい土鍋ご飯をシェアしないなんてもったいないから(笑)」
彼女の口ぶりは控えめで、照れ臭そうだった。約5年前に東京カレンダーの表紙を飾ってくれた時、自らの性格を「人見知り」と語っていたが、そのことが思い出される。
そこで、場を温めるべくまずは、と大好物のひとつらしい焼き鳥を話題にしてみる。すると、長澤さんは嬉々として語り始めた。
「焼き鳥は友達とよく食べに出かけます。
行きつけにしているお店もあります。鶏肉は体質的にも私に合うみたいなんです」
聞くと、長澤さんは歳を重ねるにつれて、食べた翌日のコンディションを考えるようになったという。また、役者には美味しいものが欠かせないということにも気づかされたそうだ。
「美しいお皿に美しく盛られた料理は五感を鍛え、気持ちを前向きにしてくれる。だから先輩たちは美味しいものをよく知っているんですよね」
「自分自身」と向き合い続ける長澤まさみがもつ飽くなき向上心
自らの感性を貪欲に研ぎ澄ませる長澤さんは、「成長の止まる生き方をしたくない」と話す。たしかに、この数年の彼女には、ジャンルを問わず縦横無尽に活躍しているイメージがある。
例えば、映画『コンフィデンスマンJP』で天才詐欺師としてコメディエンヌぶりを発揮。『キングダム』では“山の民”を束ねる王を激しいアクションを交えながら熱演。
『MOTHER マザー』では男たちとゆきずりの関係をもち、その場しのぎで生きるシングルマザーに扮した。その硬軟自在の芸達者ぶりは高く評価され、数多くの賞を手にしてきた。
だが、表彰されることは彼女にとってゴールではない。あくまで通過点のひとつだという。
「賞をいただくのはもちろん嬉しいことです。周りの人たちが喜んでくれるし、一緒に作品に取り組んできた仲間の士気も上がるので。ただ、それに甘んじるものかとも思っています。
私にとって何より大切なのは、その作品に対して自分がどう向き合っていたか。そしてこの先、どんな新しい自分を見せていくか。これに尽きます」
また、長澤さんはこうも続ける。
「誰かと競うとか、誰かよりお芝居が上手くなるとか、結局そんなことはどうでもいい。自分の人生が面白くなればいいじゃん、って思います」
その話し方は清々しいほどきっぱりとしたものだった。
役者業はとかく他人と比べられることの多い仕事だ。長澤さんは小学6年生の頃に「東宝シンデレラ」オーディションで3万5,153人の中からグランプリを受賞し、華々しくデビューして以来、第一線を走り続けてきた。
長らく多くの視線にさらされてきたことによって、“すべては自分次第”というひとつの結論に辿り着いたのかもしれない。
年齢を重ねて先のことをあれこれ考えず“いま”に集中するようになった
さて、そんな彼女が出演する一本の映画が公開される。タイトルは『四月になれば彼女は』。40万部の売り上げを突破した川村元気氏の恋愛小説を原作とするラブストーリーだ。
ひと足お先に試写を拝見すると、長澤さんは主人公の婚約者・弥生として繊細かつ芯の強い女性になりきり、その儚く美しい世界観を支えていた。
劇中において印象的なのは、結婚の準備を進めているにもかかわらず、弥生がいきなり失踪を遂げるところ。「愛を終わらせない方法、それはなんでしょう?」という謎かけを残して。
長澤さんも最初は弥生を理解するのに苦しんだらしい。だが、演じるにつれて見えてきたことがあるという。
「あんまりお話しするとネタバレになってしまうので悩ましいのですが、人と人が強い絆で結ばれるには、相手の言葉に耳を傾けることがやっぱり必要なのだと思います。
好きな人ができると、知らず知らずのうちに疑心暗鬼になってSNSの投稿をチェックしたり、その内容に過剰に反応したりしてしまいますが、雑音に惑わされてはならない。
生身のその人としっかり向き合うことが重要。自分の目は現実を捉えているだろうか。ちゃんと愛せているだろうか。そんなことを考えさせてくれる作品かもしれません」
そう語る長澤さんは穏やかで、どことなく余裕が感じられた。ひとりの女性として地に足がついているという印象を受けた。その感想を伝えると、彼女はさもおかしそうに笑った。
「今年で37歳になりますが、もっと颯爽として、しなやかな心を持った女性になっているはずでした。40代についてのビジョンも特にありません。
若い頃は先のことをあれこれ考えていましたけど、年齢を重ねるにつれて“いま”に集中するようになりました。何かを望むとしたら、自分自身のために時間を割くことでしょうか」
聞けば、習い事をいろいろやりたいという。中でも一番興味があるのはピアノらしい。
「幼稚園の時に一瞬習いかけたんですけど続かなくて。でも、『四月になれば彼女は』でピアノを弾くシーンがあって、久しぶりに鍵盤に触れたらすごく楽しかった。
『百花』という映画で共演した原田美枝子さんも、そのお芝居を機に本格的に習うようになってハマったそうなので、私も続きたいなと思っています」
その話を聞きながら思った。地道な練習と努力がものをいう楽器を習いたいとは、まさにストイック。成長が止まる生き方を好まない彼女らしいチョイスだな、と。
今年はこのあとも脚本と監督を三谷幸喜氏が務める映画『スオミの話をしよう』で主演を務めることが決まっている。
“長回し”が多用される三谷作品では役者としての実力が問われるが、長澤さんは本作でも新境地を切り拓くのだろう。
穏やかにして凛とした眼差しを持つ彼女を見ていたら、その八面六臂(はちめんろっぴ)の快進撃はまだまだ続くと確信させられた。
― Information ―
映画『四月になれば彼女は』大ヒット上映中!
10年の歳月を経て初恋の相手から届いた手紙と、突然失踪した婚約者をめぐる壮大な愛の物語。
監督は新進気鋭の映像作家・山田智和氏。出演は佐藤 健、長澤まさみ、森 七菜ほか。
■プロフィール
長澤まさみ 1987年生まれ、静岡県出身。2000年、第5回「東宝シンデレラ」オーディションにてグランプリを受賞し芸能界デビュー。近年の出演作に『コンフィデンスマンJP』シリーズ、『MOTHER マザー』、『ロストケア』など。現在、Netflix映画『パレード』が好評配信中。
■衣装
トレンチコート 616,000円、レザーシャツ 844,800円、タンクトップ 140,800円、レザーパンツ 869,000円、リング(右手)84,700円、リング(左手)79,200円(参考価格)、バッグ 599,500円〈すべてボッテガ・ヴェネタ/ボッテガ・ヴェネタ ジャパン TEL:0120-60-1966〉
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