三人の男たち~夫婦の問題~ Vol.4

「そろそろ子どもが欲しい…」不妊治療クリニックに通う31歳妻が、夫に相談したら衝撃の返事が…

「俺は、琴子のことは大事に思ってるよ。最高の嫁だと思ってる。ただ俺にとって、セックスってそんなに重要だと思ってない。それに俺は、自分の子どもは欲しくないんだ」

「どうして?幸弘だって、いつかは子どもを欲しいと思ってた」


琴子の言葉に、幸弘は驚いた表情を見せた。

「いや、俺は子どもを欲しいなんて思ったことはない。いつか欲しくなる時がくるかもと思ったけど、俺の意見は今も変わってない」

「理由は?そこまで欲しくない理由でもあるの?」

ショックを受ける琴子に、幸弘は薄ら笑いを浮かべながら答えた。

「理由?俺はもうこれ以上、俺らみたいな犠牲者を生みたくないんだよ」

会話の合間に運ばれてきた料理を淡々と食べ進めていた幸弘は、最後の一口を飲み込むと、帰り支度を始めた。

「悪い。俺、事務所に戻るわ」
「え、ちょっと待ってよ。まだ話は終わってないんだけど…」
「ごめん。また改めて話そう」

そう言って、幸弘は席を立ち、個室の扉を開けようと手をかけた。

幸弘を引き止めるように、琴子が声を振り絞る。

「改めてっていつ?いつも大事な話のときは、そうやって逃げるじゃない」

感情的になるのを抑えるように話す琴子に、幸弘は冷たく答えた。

「琴子だって、わかっていると思ったけど。俺たちみたいな子、結局不幸になるだけだよ」

パタンと扉が閉まり、再び静寂に包まれる。

琴子は急に幸弘という人物がわからなくなり、呆然とするのだった。

夫・小野幸弘の葛藤


2日後の月曜日、午前9時。

幸弘は、シニア・パートナー弁護士に呼ばれた。

「実は、君をジュニア・パートナーにっていう話があがっているんだよ」

「ありがとうございます」

落ち着いた声で頭を下げる幸弘に、彼が資料を取り出して見せた。

「それでというか…。例の大企業が、顧問弁護士を変えるという噂が出ているんだ。ただ、他の事務所ももちろんその座を狙っているみたいでね」

「はあ…」

幸弘の悪い予感が、的中した。

「ここの代表、確か君のお父さんのお知り合いだったよね?今回の契約が取れれば、君を引っ張り上げやすいんだけどね」


「わかりました。父に聞いてみます」

幸弘はそう答えたが『またか』と心の中でつぶやき下唇を噛む。

こんなことは、今まで何度もあった。

幸弘が評価される裏には、いつも父親の影。

やっと自分の目指したい道に進んだと思っても、常に親が絡んできた。

だからこそ、必死に仕事をし、誰よりも実力をつけて認めてもらいたかったのだ。

それなのに、誰も幸弘を単体では見てくれない。

琴子だって、結局一緒だ。

親に逆らえず、家族のために幸弘を選んだ。

結婚して半年が経った頃。幸弘は徐々に琴子に心を開き始めていた。

だが偶然、彼女には結婚直前まで恋人がいて、結婚後も何度かその男と会っていたことを知った。

琴子が結婚を決めたのも所詮、親の意向に従っただけ。

子どもを欲しがるのも、親に言われたからだろう。

― 俺ら夫婦の間に愛情なんて、初めからないんだよ…。

幸弘は飲んでいたコーヒーの紙コップをグシャリと潰すと、自席へ戻った。


▶前回:「本当に仕事?」土日も出勤する外コン勤めの夫に、31歳妻は不満を持ち…

▶1話目はこちら:「実は、奥さんとずっとしてない…」33歳男の衝撃告白。エリート夫婦の実態

▶︎NEXT:5月3日 金曜更新予定
カリンとミナト、辻夫婦がそれぞれ抱える深い悩みとは…?

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この記事へのコメント

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No Name
和食店で八寸を食べてる中、いきなり
「最近ずっとしてないじゃない?」とか言い出す琴子もどうなの🧐    話の途中でも、面倒になるとすぐ職場に逃げる幸弘も大人気ないし。
2024/04/26 05:4732返信2件
No Name
そんなに親の影響受けるのが嫌なら、さっさと縁切って、1人で海外にでも行けば良かったのに。結局、恵まれた環境を捨てられなかっただけだよね。何でも親のせいにして、つまらない男。
2024/04/26 08:0525返信1件
No Name
なんか…小さい男だな…
2024/04/26 05:5723返信1件
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