アオハルなんて甘すぎる Vol.10

「中学生から海外留学へ行かせる」サイコパスな元夫からの強制。小学4年生の息子の本心は…

男の人だ、と思って振り返ると、黒塗りの車の横に、スーツ姿の長身の男性が立っていた。私は男性の衣服に詳しいわけではないけれど、その全てが高級そうに見える男性が、険しい顔で私たちに近づいて来る。…これが、元夫さん、つまりタケフミさんだったのだ。

「丁度、サロンに行こうと思っていた」
「…何のご用でしょう?」

愛さんのその顔が、初めて見る険しさでゆがんでいた。タケフミさんは私を一瞥し、すぐに愛さんに視線を戻して言った。

「話がある」
「突然訪ねてくるなんて、マナー違反では?日曜でお客様の施術がある可能性も高いのに、私の予定を全く気にしないところがあなたらしいですけど」
「お前の予定なんてどうでもいい」

相手の予定をどうでもいいと言い放つその高慢さだけで、嫌な人だと認定するには十分だったのに、タケフミさんは、その嫌な人ぶりを加速させ、“嫌な奴”に到達した。

「お前はもうあの子の母親じゃないんだから、あの子を混乱させるな」
「……母親でなければ、何だというのでしょう?」

愛さんが怒りを抑え、言葉を選んでいるのがわかった。それを気にもせずタケフミさんが返す。

「あの子が生まれてくるために、生物学上必要だった存在だ。“だった”。…過去形だ、わかるな?」

― なんなの、この人?

信じられない返しに私が驚いていると、愛さんは、呼吸を整えるためか、大きくフゥーと息を吐き出してから私を見た。

「私この人と話してから行くから、宝ちゃんは、大輝に連絡してくれる?待ち合わせにはちょっと早いけど、多分あの子、すぐ動けるようにしてるはずだから、すぐ迎えに来てくれると思うから」

ごめんね、と私の手を握りながらほほ笑んだ愛さんの指先が…かすかにふるえていて驚いた。こんな愛さんは初めて見る。

緊張?それとも……恐怖?この人への?と、私がタケフミさんを見上げると、早く立ち去れと言わんばかりに、冷たい目だけで私を見下ろしてくる。

― 蛇。毒蛇。

まるで感情など持たないかのようなその冷たい視線は私を怯えさせた。けれど。

― 大輝くんだったら、どうするだろう?

祥吾から私を守ってくれた時のことを衝動的に思い出し、私は勢いで言ってしまった。

「…私も一緒に行きます」

愛さんが、宝ちゃん!?と驚いた声を上げたが、私もそんなことを言ってしまった自分に驚いていた。でもとにかく、愛さんを1人で行かせたらダメな気がしたのだ。男性は相変わらず表情を変えず、微動だにせず、私を見下ろしたままだった。

「…今日、私の誕生会で、私が主役の日なのに、その、あなたが乱入してきたわけで…困ってます。私のパーティまでに、あなたが時間までに愛さんを帰してくれるか心配ですし、ついていきます、私も、絶対に」


その後、この子どもはなんなんだ、とタケフミさんに言われながら、私はほぼダダをこねる形で愛さんと一緒に車に乗り込んでここに来ることになった。ついてからも別室にいろ、と言われたけれど、あなたが何を言うか心配なので、と食い下がると一緒にいさせてもらえることにはなった。なったのだけど。

― 無力。

愛さんが大ピンチの状態になっても私は何もすることができない。せめてもと、愛さんの側に寄りその手を握ってみたけれど、気休めにもならないだろうなとはがゆくなった。

その時、お連れしました、と女性の声がした。入りなさいと答えたタケフミさんの言葉を待って、先ほどのお手伝いさんの後ろに小さな影が見えた。

― 男の子?

「…タケル」

愛さんが発した言葉に、男の子が小さく、ママ、と言った。お手伝いさんに促され、タケルくんは、タケフミさんの隣に…少し離れたところに座った。

「…なんで、タケルをここに…」

この記事へのコメント

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No Name
時間がないなら着替えてくるな!
本当だよ😆
2024/04/06 05:4543
No Name
いやいやー、愛さんどうしてこんな男と「間違った結婚」をしてしまったのだろろうか。 タケルくんを脅してまで留学させたい理由は? 不倫相手(継母)が厄介払いの為にサイコパスに提案した可能性もあるなぁ。
2024/04/06 05:4325
No Name
タケフミ、怖っ。組長か
2024/04/06 05:4617返信1件
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