2024.03.30
アオハルなんて甘すぎる Vol.9そう言って大輝くんが雄大さんをにらんだ。でもその目には、祥吾をにらんでいた時のような絶対零度の迫力はまるでなく、怒って拗ねた子供のような表情で。
普段は年齢よりも大人びて見える大輝くんの、その幼い反応に、私が驚いていると、雄大さんが、あーもうめんどくせぇ、と言って、くしゃくしゃっと大輝くんの頭を撫でてから言った。
「大輝お前、ほんと…一度信じたらバカになるっていうか…人との距離間、ヘタ過ぎ。お前の友達で信用できるのは、メイくんと勇太だけだって、オレがいつも言ってんだろ。あのインフルエンサー双子は…まあ微妙」
インフルエンサー双子というのは、さっき会ったショウくんとカツヤくんのことだろう。勇太と呼ばれたのは、大輝くんと大学が同じだった元柔道部の男の子で、大きくてかわいい子だよ、と愛さんが教えてくれた。
「お前みたいな繊細ボーイには、アイツらみたいな運動バカがちょうどいいんだよ」
― …ちょっと待って。…この人今、メイ選手を運動バカって…バカって言った?イヤイヤイヤイヤ(溜息)…それはダメです雄大さん。ほんとダメ。
プロ野球界の宝だよ!(怒)と、大輝くんと話す雄大さんのその背に思いをぶつけていると、雄大さんが振り返り私を見た。え?と思った瞬間。
「宝ちゃん、たぶん今、心の声が出ちゃったと思う」
と愛さんが爆笑した。
「運動バカの何がダメだって?」
雄大さんに念押しされ、失態確定。うわやばい。心の声が漏れました事件は2度目で恥ずかしすぎる…でも、メイ選手をバカ呼ばわりされたらそれは……うん、断じて見過ごせない。
「………人をバカって言う人がバカ、って言いますし……その、せっかくなので、メイ選手がどれだけすごい選手なのか、今私が説明しましょうか?」
絞り出した私の言葉に、今度は大輝くんが笑い、雄大さんもほんの小さくだけれど…笑った。
◆
あれから2週間が経ち、今日は12月3日。私の28歳の誕生日だ。時刻は13時過ぎで、本来ならバースデーツアーとやらに向かう時間…のはずだったのに。
今、私は思いもよらぬ状況に追い込まれ、運転手付きの、いわゆる黒塗りの高級車というものに乗せられている。……愛さんと一緒に。
心臓はバクバクとうるさいし、手に滲む汗で指先が冷えていく。
「…本当にごめんね、誕生日なのに…」
後部座席に並んで座る愛さんが私の手をぎゅっと握る。大丈夫です、と握り返し、なんとか笑顔を作ってみたけれど、頬が引きつってしまったことがわかって我ながら情けない。
愛さんを助けたくて、一緒に乗りこんだのだからしっかりしなきゃ意味がない、と自分を奮い立たせてバックミラーを見ると、鏡越しに助手席の男性と目があった。
その眼光の鋭さに背筋がゾクッとして目を逸らしたくなったけれど、ダメだと足元に力を入れ、私にできる精一杯で鏡を睨みつける。男性が鼻で笑って、私から目をそらした。
この男性は…愛さんの元夫らしい。
「…どこに行くんですか…」
男性に向けた愛さんの声が、かすかに上ずり、震えている。男性は答えない。愛さんの横顔がどんどん血の気を失っていくようで心配になっていると、膝の上においていた携帯が震えた。大輝くんからのLINEだった。
≪どういうこと!?愛さんのex-husbandに拉致された、って≫
≪今、車でどこかに向かってるけど、まだ状況がわからないから、わかったらまた連絡するね。愛さんは1人で行くって言ったんだけど、1人にしたくなくて。大輝くん、待たせてごめんね≫
≪了解。逐一報告してね。必要ならすぐに迎えに行くし≫
なんかひどいことされてないよね?と続いた大輝くんのLINEに、それは大丈夫、と返して私は携帯を握りしめた。愛さんは窓の外を見たまま動かない。
「バースデーツアーの開始は15時だから…」
それまでに全身ピカピカにしてあげる、ヘアメイクもね、と言われて、私が表参道の愛さんのサロンに到着したのは午前10時。今から3時間前のことだった。
▶前回:「ハグしたい」深夜23時55分、デートの帰り際に女性が思わず言った言葉に男は…
▶1話目はこちら:27歳の総合職女子。武蔵小金井から、港区西麻布に引っ越した理由とは…
次回は、4月6日 土曜更新予定!
一番心配なのは、愛さんの元夫に拉致された愛さんと宝。大輝に助けられるかな。雄大さんの助けも必要そう。宝には忘れられない誕生日になりそうだね。
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