アオハルなんて甘すぎる Vol.8

西麻布のクラブで、プロ野球選手と遭遇…!ファンだった27歳女性が見た、彼の意外な姿

ああ、確かに…店に入る前に、大輝くんはそんなことを言っていたと思いだす。

「今日、宝ちゃんと元カレさんのやりとりを見て、改めて思ったんだよね。ほんと、人の言葉って呪いになるなあ、って」
「…」
「宝ちゃんは彼のせいで、自分がつまらないと思ったわけでしょ?」

私は食べる手をとめ、顔を上げた。すると大輝くんは、あんまり深刻に受け取らないで欲しいんだけどさ、と、小さな咳払いをして水を飲んでから言った。

「……おれさ、実は養子なの」
「……よ、うし?」
「両親の実の子じゃないって話。あ、でもすごく大切に育てられたし、両親には感謝しかないし、不満はないから悲しい話じゃないよ」
「…」
「ごめん。何となく、宝ちゃんに言いたくなっちゃって」

何でかな、と大輝くんは笑った。


― 何で…教えてくれたんだろう。

私はこれまで養子という言葉を身近に感じたことはなく、その存在にも会ったことがはない。つまり、いまいちピンときてはいなかったけれど、家まで送るね、と並んで歩く大輝くんに、なぜかとてもたまらなくなった。だから。

信号待ちで足を止めた時、思い切って伝えた。

「……私にできることがあったら言ってね」
「…ん?」
「今日はほんとにありがとう。桐島選手に会えたのはもちろんだけど、大事な幼馴染たちとの会に参加させてくれてうれしかった。それと…」
「…」
「祥吾にも、ガツンと怒ってくれてありがとう。…だから……その」

言葉を止めた私を、ん?と言う顔で大輝くんが覗き込んでくる。その表情にむずがゆくなったけれど、思い切って、大輝くんに向かって大きく両手を広げてみせた。

「………友情と感謝のハグを……したいんですけど」

大輝くんがキョトンとした。うわ、はずかしい、と思った瞬間。

「…宝ちゃんから初めてのハグだ。友情のハグって嬉しいものだね」

大きな体を屈めて私の腕の中へ入ってきた大輝くんがそう言った。ぎゅうっと強く抱きしめられて、なぜだか涙が出そうになって、ごまかすために私は言った。

「……困った時は…今度は大輝くんが私を頼ってね。大輝くんみたいにすごいコネクションとかはないし…何ができるか分からないけど」

― 私にとっても、大輝くんは初めての男友達かもしれない。

そんなことを思っていると、ありがと、と言って、大輝くんが体を離した。そして、あ!と声を上げた。

「保護者①②を発見しました。宝ちゃん、見て」

大輝くんの視線の方向を振り向くと、車道の向こう側に、雄大さんと愛さんが見えた。私たちには気がついていないようで、愛さんの笑顔と真っ白なコートが夜にまぶしい。

「どうする?…ついてく?」

いたずらっぽく大輝くんが笑い、自分の腕時計を見せてくれた。23時55分。明日も仕事だからと帰るつもりでいた24時まであと5分しかない。

でも。

「……ついてく!」

友情を確認し合えたこの夜を、私はまだ終わらせたくなかったのだ。


▶前回:「俺の大切な人」イケメン年下男からのまさかの言葉に、27歳女は動揺し…

▶1話目はこちら:27歳の総合職女子。武蔵小金井から、港区西麻布に引っ越した理由とは…

次回は、3月30日 土曜更新予定!

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この記事へのコメント

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No Name
京子さんは離婚せず夫と再構築。報われなかった大輝が宝と付き合うハッピーエンドもあり得るのかな.... 今後が楽しみ。
2024/03/23 06:0836返信1件
No Name
すごいね!!! 宝ちゃんにとっては夢のようなひと時。
2024/03/23 06:0533
No Name
宝と大輝に友情が芽生えて良かった。楽しそうな時間が過ごせてよかった。

桐島芽衣って、誰がモデルだろう。有名な選手の息子が1年目で首位打者になるって、かなりレアケースだと思うんですが。2世選手でも親があまり有名じゃなかったり、親が有名過ぎて息子は凡人だったりするのが大半。
2024/03/23 06:1114
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