人生は、何が起こるかわからない。
日常が歪み、愛情が枯れ、永遠を誓った結婚が“離婚”という名の終わりを迎えることもある。
だけど、恋の終わりのように「さようなら」の一言では片付かないのが離婚だ。
正しい離婚の方法。あなたはちゃんと知っていますか──?
Vol.1 夫が家を出ていった
「今日ね、花奈ってば幼稚園に行きたくないってゴネて大変だったのよ」
父親なのだから、昼間の子どもの様子が気になるはず。そう信じて疑わない楓(かえで)は、帰宅した夫の光朗に、毎晩こうして娘の報告をしている。
21時半。すでに娘は眠っていて、ダイニングには夫婦2人だ。
「クラスが替わったばかりの4月なんだし、しょうがないよ。明日は僕が花奈を送っていくから、楓はゆっくりして」
光朗は愚痴とも取れる楓の報告を聞きつつ、いたわりの気持ちも忘れない。
こうして2人で子どもの話をしている時、楓はつくづく思うのだった。
― あ〜、この人と結婚してよかった。
8歳上の夫とは、結婚してもうすぐ5年になる。いつだって光朗は楓の話にしっかり耳を傾けてくれるし、記念日や誕生日のプレゼントも欠かさない。
結婚前から専業主婦を希望していた楓が、頭の中に描いていたそのまんまの日常がいまここにある。3年前にはこの北参道のタワーマンションを購入し、生活には何の不自由もない。
それになにより、光朗がいい年の取り方をしていることが、妻として誇らしかった。
今年で42歳。すっかり“オジサン”と称して差し支えない年齢だが、お洒落をすることが好きな光朗は、ママ友たちから「ご主人、素敵ね」と言われることもしばしば。
付き合っている時にはすでに不動産コンサルティングの家業を継いでいて、数年前からは異業種の事業にも取り組み始めて成功を収めている。
優しく、ルックスも良く、経済的にも豊かな夫は、楓の自慢なのだった。
「明日は天気もいいから、幼稚園まで歩いて行こうかな」
そう言いかけたところで、光朗は思い出したように、話を切り出した。
「そうだ。事後報告で悪いんだけど、オフィスの近くに部屋を借りたんだ」
この記事へのコメント
何の相談も無しに「有明に部屋を借りたんだ、事後報告で悪いんだけど」って。そこで何となく楓も怪しいと気付かないきゃ。 仕事が上手くいってない?重病? とか随分おっとり構えてるなと。