2024.02.19
オトナの5分読書 Vol.17
では、象を動かすにはどうしたらよいのでしょうか。
ケーススタディーを考えてみます。
あなたは、ジャングルに住むターザンで、象と仲良し。ある日、密猟者が象を狙っているという情報を入手しました。今日中に隣のジャングルまで逃げないと象は殺されてしまいますが、象は「いざとなったら何とかなる」となかなか動こうとしません。力ずくで動かそうとすると踏み潰されてしまいます。説得しようとしてもなかなか伝わりません。
どうしたらよいでしょうか。
象を動かすには、大きく分けて次の4つがあります。
「正しい情報を提供する(啓発)」
「行動したくなる環境を整える(ナッジ)」
「褒美と罰則を設定する(インセンティブ)」
「選択を禁止する(強制)」
啓発するだけでは、象の習性によって、知識を得たとしても行動に移さない場合もあります。
こんなときは、象の習性に合わせてそっと促すのがよいです。象の習性にはパターンがあるため「このタイミングでこの刺激が加わると、象はこう行動する」ということが、一定の確率で予測できます。
その結果、行動の阻害要因となっている習性を抑制し、促進要因となっている習性を味方につけ、望ましい行動へと促す設計が可能になります。これが「ナッジ」です。
ナッジは「そっと後押しする」「ひじで軽くつつく」という意味の英語で、ここでは「象を動きやすくするために、習性に働きかえる方法」というニュアンスで用います。
象の習性として、ほんの小さな面倒に遭遇するだけで、行動する気が萎えるというものがあります。
例えば「天気がいいから外を散歩しよう」と思っても、足の裏で何かがチクチクささっていると感じるだけで、出かける気持ちがなくなります。
そんなとき、チクチクを取り除いたうえで「隣のジャングルできれいな花が咲いたよ」と教えてあげたり、他の象の群れから「こっちにおいでよ」と呼びかけてもらったり、象の機嫌のよいタイミングで見計らったり、といった工夫をすると象がうまく逃げてくれる可能性が高まります。
ナッジは、象の心を開いたり一歩踏み出したりするのに向いています。でも、ナッジで行動定着まで期待するのは無理なことです。
それでも最初の一歩さえ踏み出せない場面もよくあるので、そんなときにはナッジと教育を組み合わせることがおすすめです。
例えば、私は夜になるとスマホでYouTubeを見るのがやめられませんでした。
特に見たい動画があるわけではないのに、むしろ見たい動画を見つけるまで見続けるという行動をしてしまうのです。夜になると“現状維持バイアス”が強くなり、一度スマホを手にしたら手放せなくなります。
このため家族に「21時過ぎたらスマホの電源を切る」と宣言し、21時にアラームを鳴らし「うっかり」を防ぐようにしました。象は面倒くさがり屋なので、電源オフにした後、再びオンにすることはしたがりません。
象は、目先の誘惑に流されやすくなる。このような修正に対しては、21時になったらアラームをかけてスマホの電源を切るというナッジが有効となります。
つまり、象は小さな障壁があるだけで行動をやめるのです。
あとは、即時フィードバックというナッジも有効です。
逆にいうと、フィードバックがすぐに返ってこない場合、象は暴走しがちです。
キャンディーを口にした瞬間「虫歯進行度3%」2つ目を口にした瞬間「虫歯進行度5%」と、その場でダメージポイントがフィードバックされるのなら、すぐに食べるのをやめて、入念に歯を磨きたくなるでしょう。
健康行動するたびにポジティブなコメントがつくアプリは、AIによる自動応答とわかっていても嬉しいものです。
また、不快感を与えて行動へと促すフィードバックもあります。
その代表例は、車のシートベルト未着用時の警告音です。締めていないと警告音がずっと鳴り続け、この不快さから逃げるためにシートベルトをする人も多いでしょう。
その効果もあり、日本のシートベルト装着率は運転者が99.1%、助手席同乗者が96.9%と高い水準です。
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