2024.02.12
東京ご近所探訪 Vol.35日本の中心地として古くから繁栄を続けてきた「日本橋」。その歴史の厚みゆえ、人々の街への愛の深さも相当なもの。
この街を取材して見えてきたのは、古きものへの多大なるリスペクトと誇り高き住人の存在。日本橋の魅力を余すことなくお伝えする!
東京の街の個性を徹底調査する連載「東京ご近所探訪」。過去にご紹介した街も、要チェック!
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今月のエリア【日本橋】
今回取り上げるのは、日本橋駅を中心とした狭義の日本橋ではなく、明治期に制定された「日本橋区」のエリア全体。
第二次世界大戦後、京橋区と合併し中央区となった際、すべての町名に「日本橋」という冠をつけたほど、地元への愛着が強い地域だ。
八重洲や東日本橋など町名がさらに変わったところもあり、現在は日本橋室町、日本橋人形町など19の「日本橋〇〇町」が残っている。
オフィス街兼商業地として栄える日本橋・室町エリア、金融街の茅場町・兜町エリア、繊維問屋が集まる馬喰町・横山町エリア、そして町人文化が残る人形町・浜町エリアまで、街区によって特色が分かれるのだ。
新旧が調和して、新たな賑わいを生み出す
まずは、この街の特色について、創業145年の老舗『𠮷野鮨本店』の5代目、𠮷野正敏さんに話を伺った。
「日本橋はいまも昔も“最先端の街”。江戸時代に日本橋を起点に五街道が整備されたことで文化、経済、商業の要として発展して、そのときの基盤が現在の街にも息づいています。
『コレド室町』ができて最近は日本橋室町側が賑わっていますが、もともとの繁華街はこちら側」と笑う。
そう言ってから「そんな風に言えるぐらい仲は良いんです。かつて魚河岸があった室町には、海苔や鰹節などを扱う老舗も残っていて情緒もある。向こうがなかったら、日本橋は寂しい街になりますから」とも。
①145年の歴史を持つ日本橋の老舗
『𠮷野鮨本店』@日本橋3丁目
江戸時代、屋台のファストフードとして生まれた鮨の原点を大事にする老舗。
「好きなものを、好きなだけ、好きな順番で食べてほしい」と昔ながらの「お好み」のスタイルを貫く。「トロ」発祥の店としても有名。
ディナーは、食べて飲んで、15,000円前後。
◆
日本橋エリアは、それぞれの町会に連帯感があり、さらに「日本橋」としてまとまろうという気概がある。
『三代目たいめいけん』の茂出木浩司さんは「歴史あるものを残しながら、新しいものを創出するのが日本橋。
神田明神の氏子地域として、お祭りは各町会で盛大にやっているし、室町は『い組』、人形町は『は組』と江戸から続く火消しのとび頭も残っていて正月の門松やお飾りを依頼する文化もあります。
一方で、新しい商業施設もできて、賑わいも生まれている。新旧の融合が魅力のひとつですね」。
②全国に名を知らしめる、日本橋を代表する洋食店
『三代目たいめいけん』@日本橋室町
昭和6年の創業以来、オムライスやハンバーグステーキなど日本の洋食をけん引してきた名店。
日本橋1丁目地区の再開発により、一時的に日本橋室町の川沿いの店舗で営業中。2階のレストランでは食材にこだわり、より一層の手間をかけた料理を提供する。
「ビーフシチューオムライス」3,700円。
街ごとの色が異なる、日本橋の奥深さたるや
「住む」目線で見る日本橋は、どのような街なのか。
創業から61年、不動産業を営みながら地域に根差した活動も行っている「久松商事」の外川隆司専務によれば「日本橋、室町周辺は開発エリア。住居として人気なのは隅田川に近い東側のエリアです。
代々の家業を継いでいる住民も多く、地元の世話役に当たる旦那衆が集まって地域のことを話し合ったり行事で盛り上げたりする文化が残っています」。
人と人とのつながりを大事にしながらも、歴史ある商人の街なのでビジネスマインドもあり、閉鎖的な雰囲気はない。
「物件は築20年以内のマンションが多く、ファミリー層には今年開校150周年を迎えた伝統校、区立久松小学校の通学区域である日本橋久松町周辺、日本橋浜町などが人気です」と外川さん。
まず、日本橋川の南に位置する日本橋兜町・日本橋茅場町界隈へ。
江戸時代から金融の街として栄えたエリアで、高度成長期には多くの証券会社が並び活況を呈していたが、1999年に東京証券取引所の立会場が閉鎖されると閑古鳥が鳴く街に一変。
しかし、旧第一銀行をリノベーションしたホテル「K5」が2020年に開業したのを皮切りに、元金融系企業の重厚な建物や古い飲食店をリノベした個性的なカフェやレストランが増加。
食の複合ショップ「BANK」などはメディアにも多く取り上げられ、界隈は最新のお洒落スポットに変貌を遂げている。
日本橋川を越えると、江戸時代には人形浄瑠璃や歌舞伎の芝居小屋、寄席、飲食店が集まる歓楽街として花開いた人形町・浜町エリアだ。
いまも下町情緒が色濃く感じられる地域で、和食の新鋭『川田』や『WAGYU日山』など、実力店が点在。予約困難店も多く、ここ数年でグルマンからの注目度は高まっている。
馬喰町・横山町エリアは呉服屋や問屋が集まった街。最近は古いビルをリノベしたアトリエやギャラリーが増加中。
「KIKKA」や「CITAN」などの外国人向けのホステルや『bakuro COMMON』、『BERTH COFFEE』などのレストランやカフェも話題。
外国人率が高く、時代や国境を越えた空気感が生まれている。奥渋で人気の『Sta.』の日本橋店などもオープンし、カルチャーを感じるお店が増えつつある。
1年前、日本橋小舟町にオープンした『喫茶ストリーマー』も象徴的な一軒だ。
都内に数店舗を構える『ストリーマー コーヒー カンパニー』が、昭和48年創業の『喫茶郷』を引き継ぎ、昭和の雰囲気を残し、懐かしのグルメとコーヒーを提供する。
ヘッドバリスタの井上鉄也さんは言う。
「地域で大切にされてきた店には想いも歴史もあります。それを全部そのままに残すことはできなくても、時代に合わせながら継承することはできる。
『喫茶郷』時代からの常連さんも、“ストリーマー”が好きで来てくださる方も、寛げる店にしたいと思っています」
③レトロさはそのままに、生まれ変わったお洒落喫茶
『喫茶ストリーマー』@日本橋小舟町
『ストリーマー コーヒー カンパニー』初の喫茶店業態。
メニューやレシピはオリジナルで、たまごサンドや硬めのプリンなど昭和テイストのメニューがそろう。
「マッカーサーナポリタン」1,000円、「ブレンド」600円。
◆
再開発が進む日本橋だからこそ、この地で大切にされてきたものを残していきたい。日本橋の再開発に大きく関わっている三井不動産にも、その想いはある。
広報担当者曰く「日本橋再生計画のコンセプトは“残しながら、蘇らせながら、創っていく”。
たとえば、平安時代から日本橋にあり、一時期はビルの屋上に移転していた『福徳神社』の社殿を再建したり、賑わいを創出するため、街と調和した小さな物件に個性的な店舗を誘致したりしています。
地元の方と一緒に街作りに取り組んでいるんです」。
昔からあるものをただ残すのではなく、すべてを新しくするのでもなく、進化する日本橋。
「100年続いた老舗が閉店することもあれば、半年前にできた店がこれから何十年と続くこともある。老舗も新店も関係なく、一緒に日本橋を盛り上げていきたいね」と言った“𠮷野鮨”の大将の言葉がグッと胸に響いた。
日本橋。正直、商業エリアと人形町以外は知識が乏しい。そんな私が、最も興味を引かれたのが、小伝馬町と馬喰横山に挟まれた一帯。
中でも異彩を放っていたホテル「BnA_WALL」のバー『STAND BnA』を訪ねた。
こちらが「BnA_WALL」のエントランス。そこにバーが併設されている。
「ここはアートホテルで、各部屋とアーティストがコラボしてるんです」と、バーテンダーのアラタさん。
界隈ではアーティストのコミュニティが盛んで、毎週のようにコラボイベントが行われている。
「代々木上原とか八幡とか、そっちの洒落たお店が次にこの界隈で店を出すとか、そんな流れができつつあります」という。
同じ東京でもまだまだ知らない世界がある!とウキウキした一夜だった。
「日本橋界隈の人は自転車で動くので、行動範囲が広め」と知人が言っていたので、私もチャリで日本橋散策!
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