2023.11.20
ひとりで住む家、ふたりで棲む家 Vol.12年前、36歳でこの家を購入した理由。
それは、元カレからの婚約破棄によって、結婚を諦めたから。
一生独身で居続ける可能性を覚悟して、私は“自分だけの家”を求めたのだ。
◆
1つ年上の元カレは、私が広告代理店に転職して、初めて担当したクライアントの社員だった。私の部署異動が決まり、担当を離れることになったのがキッカケで、プライベートでも食事するようになり、交際に発展した。
― 軽い気持ちじゃなさそうだし、このまま結婚するものだって思ってたんだけどね…。
しかし、その読みは外れた。交際期間が3年、4年と経ってもプロポーズされる気配はない。
5年目、34歳になった私はついに結婚を急かしてみた。
「私たちももう長く付き合ってるし、そろそろ将来のこととか考えてほしくて…」
すると彼はプロポーズしてくれて、婚約することができた。しかし結婚が近づくにつれ、彼の態度はどんどん投げやりになり、交際6年目のある日突然別れを告げられてしまったのだ。
「ごめん。流れで色々進めちゃったけど、やっぱり今、結婚したいとは思えない。真弓がダメとかじゃなくて、どうしても結婚する気になれない」
30代の半分を捧げた男性との別れ。
絶望し、憔悴した私を救ったのは、友人の言葉だった。
「いいじゃん、身軽になれて。自分だけの“城”で気ままな1人暮らしするのも、結構楽しいよ」
上智大学の同級生で不動産会社に勤務するミズホは、結婚願望が一切ない人で、若い時から一生独身を決め込んでいた。
彼女は私よりもずっと早く、30歳で汐留に自宅マンションを購入。仕事で付き合いのある業者にリフォームを任せ、スタイリッシュな内装と上質なインテリアでおしゃれな空間を築き上げていた。
ミズホは40代で会社を早期リタイヤし、自分で事業を起こして一生現役を貫くのが夢なのだという。「結婚なんて必要ない」とサッパリと言ってのけた。
― 私も、このままいくと一生独身かな…。
自分がそう思うのも無理はなかった。
若い時は3ヶ月もすれば癒えていた失恋の傷は、30代も後半になると重く尾を引くようになる。
それに、気づけば周囲は既婚者だらけで、新しい出会いもなかった。
その時住んでいたのが、茅場町の狭い1LDKだったのもよくなかったかもしれない。
西向き2階・35平米で賃貸1人暮らし。休日に暗い部屋で一人引きこもっていると、暗い感情に心が呑み込まれそうになってしまう。
だから、当時の私は脇目も振らずに仕事に邁進した。昼夜問わず働き、土日も仕事関係の本やイベントで情報収集。エネルギーのすべてを仕事に注ぎ込んだ。
― 一人でも生きていけるかも。っていうか、ずっと一人でもいいかも。
自然と、そう思うようになっていたのだ。
だからこの家の購入を決めた。
1LDK、浜松町駅徒歩5分。65平米で7,000万円。立地を考えると破格の安さだ。前所有者が家庭の事情で地元に戻ることになり、売り急いでいたのだという。
築35年という点は少し気になったが、設備と内装のリフォームがされていたのと、1年前に大規模修繕工事が行われており、修繕積立金も十分な額だったので、不安には思わなかった。
― 古いけれど、リノベーションをしながら大切に住めばいいわ。
投資信託を一部売却して2,000万円を頭金と諸費用に充て、35年ローンを組んだ。大手勤務のおかげで金利を低く抑えられたので、管理費・修繕積立金を含んでも月々の支払いは15万円以下。毎年末には住宅ローン控除の還付金も受け取れる。
年収1,500万円の自分にとって十分に払える金額だし、定年退職時には運用資産と退職金で残債も返すことができる。もしも途中で手放す必要が出たとしても、残債分で売却することは十分に可能だろう。
あの時の選択は正解だったと、今しみじみと思っている。
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