現代の“教育・お受験”リアルドキュメント Vol.43

小6の夏まで、週5で習い事を掛け持ちしながら中受にトライ。それでも難関私立中に合格できた理由

我が子の進路の選択肢を広げるために、偏差値の高い私立中を目指す“お受験”は、もう特別なものではなくなってきている。

「だが何かを得ようとすると、他の何かを諦めなくてはいけない」というのが世の常。

受験勉強に打ち込むため、友達と遊ぶ時間を減らし習い事をやめて、ひたすら机に向かう。これはある意味、常識ともいえる。

2022年に学研教育総合研究所が行った調査では、小学生の72.5%がなんらかの習い事をしているという。

しかし高学年になればなるほど、学習塾が習い事ランキングのトップに上がってくる。

「たった1年、我慢すればいいのだから」

我が子にこんな言葉をかけ、勉強に集中させる親がほとんどだろう。

その一方で子どもがやりたいことを尊重しつつ、偏差値70超えの難関私立中に合格という結果を出したケースもあるのだ。


取材・文/蒔田稔


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「塾に課金してまで中受しなくていい」都立高校から、東大に現役合格。直前までE判定でも受かったワケ

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▼INDEX
1. やりたいことを諦めるなら、受験の意味はない

2. 合格率30%でも、子どもの伸び代を信じる

3. “点をとらなくてはいけないテスト”に照準を合わせる


シンと静まり返った屋内プールに、アナウンスが響く。

「3コース 高橋結菜」

その言葉に彼女は、わずか小学6年生とは思えない堂々とした立ち振る舞いで、飛び込み台へと上がっていく。

そしてスタートの合図とともに、勢いよくプールの中へと潜りこむ。スイスイと泳いでいく姿は、まるで魚のように伸び伸びと気持ちよさそうだ。

100mを泳ぎ終え、水面から顔を覗かせた彼女の笑顔には、やり切った感が滲み出ていた。

これは今回取材した高橋香子さん(仮名・46歳)の娘・結菜さん(仮名・13歳)が、日本水泳連盟が主催する小学生の全国大会『とびうお杯』に出場したときの1コマだ。

高橋さん親子は、中学受験をすると決めてもなお水泳を続け、合格も全国大会出場も果たした。なぜ、両方を勝ち取ることができたのだろうか。



まずは、この時間割を見てもらいたい。


これは結菜さんが、小6の前半までにこなした1週間のスケジュールだ。学校で授業を受け、帰宅してからの流れである。

ここまで予定が詰まっていると、大人でも「今日はちょっと休みたい」と思ってしまう日もあるだろう。実際、結菜さんも「少しダラダラしたい」と訴え、香子さんとケンカになったこともあったという。


やりたいことを諦めるなら、受験の意味はない


実は結菜さん、テニスにダンス、そろばん、サッカー、ピアノ、習字、学習塾と7つの習い事をやってきた経験があるという。

「娘が興味を持ったことは、なるべく全部やらせてあげたくて。結果、これだけの習い事に手を出すことになったんです。

その中でも本人が『続けたい』と言って残ったのが、水泳、ピアノ、習字の3つだったんですよ」(香子さん)

中でも水泳は、結菜さんが一番続けたいと願った習い事だ。1歳からベビースイミングを始め、小学1年生からは選手育成チームに。

「このチームが厳しくて、週に7回練習が設定されていまして。そのうちの8割に出席していないと、大会に出させてもらえなくなってしまうんです。

ルールとして夏の大きな大会が終わった後、受験学年はお休みがとれるのですが、それまでは休めなくて」(香子さん)

結菜さんは、水泳の全国大会に出場できるほどの実力の持ち主。それならばチームを一旦離れて、受験が終わった後に戻ればいいと思うのだが…。

「中1になってから新しいチームに入ろうとすると、JO(ジュニアオリンピック)に出場しているとか、すごく優秀な成績を持っている子でないと入れなくなってしまうんです。

そうなると練習の場を失ってしまうので、やめることができなかったという事情もあります」(香子さん)

結菜さんが大好きな水泳を「やり切った!」と思うところまで頑張らせてあげたい。

それに水泳を諦めるのなら受験する意味はないと、当初は習い事と塾を無理せず両立できるレベルの学校に、受かればいいと考えていたという。

また結菜さんも当時を振り返り、こう話す。

「『水泳をやめて、もっと早い時期に受験勉強に専念していたら…』とは考えませんでした。受験勉強のみだったら、自分でもここまでできたかわからないです」(結菜さん)

はたから見るとハードスケジュールだが、本人にとってはそのすべてが、なくてはならないものだったのだ。

「水泳が終わった後に、塾へ行って勉強する。ピアノの後に泳ぎに行く。これって私の中では、気持ちを切り替えられるキッカケになるので。

キツイなと思うことはありましたけど、それでやめたいとは思いませんでした。

それに塾の先生も両立を応援してくれたので、期待に応えたいという思いもあって」(結菜さん)


前述の通り、無理なく合格できるレベルの学校を志望校に、と考えていた香子さん。

しかし小3から早稲田アカデミーに通塾するようになると、結菜さんの学力は難関校コース(NNクラス)に入るほど上がっていった。

「負けず嫌いな性格もあり、塾で一緒にいる子たちに刺激を受けて、もっと頑張りたいとなったみたいで」(香子さん)

とはいえ、結菜さんは当時12歳。塾の難関校コースで勉強しつつ、習い事と両立するのは体力的にも精神的にも厳しかっただろう。

にもかかわらず第一志望のトップ校に合格できた理由とは、一体何だったのだろうか。

そこには結菜さんが実践した短期間での勉強法と、母・香子さんの献身的なサポートがあった。


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