都立大学の住宅街、不動の人気を誇った中華料理店『わさ』を目指して、食通たちが幾度となくタクシーを降りた場所。
その跡地に入った『笠井』も、同じ現象を起こしている。
タクシーを使ってでもわざわざ足を運びたくなるのは、普通に見えて普通じゃないイタリアンがあるからだ。
中華の名店跡地を居抜きで活用したユニークな一軒
目印は通りにさりげなく立つ『笠井』の標識。殺風景な外観の扉を開くとL字型カウンターがあり、厨房には中華鍋。
イタリアンながら、前店の厨房がそのまま生かされ、それはシェフの笠井 篤さんによるあえての判断だ。
中華鍋を超強火にかけてパスタを茹でる笠井さんが言う。
「これだとずっと対流しているのでパスタがすごく躍る。自分好みです」
北イタリアと『TACUBO』などで腕を磨き、名店跡地を譲り受けたシェフの狙いは正解だとパスタを食べて知るだろう。
例えば「しらすのアラビアータ」の麺表面のハリや喉ごしの良さは、中華鍋のおかげもあるはず。
その他、生ハムやラムのグリルなど、出てくる料理に目新しさはさほどない。
「生ハムとブリオッシュ」はコース冒頭に登場。
しかし、生ハムは熱いブリオッシュ生地の上でふわっと繊細な舌触りになっているし、ラムはフライパンひとつで焼いただけなのにやたらとジューシーだ。
知っている料理の未知なる味わいや香りを引き出す秘訣を聞くと、「ちゃんとやる。タイミングをずらさない」とシンプルな答え。
だがその言葉の裏には、最適解の仕込みや徹底的な“できたて”への追求心があり、だから舌の肥えた男女を住宅街まで呼び寄せる。
そんな集客もまた、奥目黒らしきイタリアンの個性なのだ。
■店舗概要
店名:笠井
住所:目黒区八雲3-6-22 1F
TEL:03-6421-3517
営業時間:17:00~ ※予約制
定休日:水曜、その他不定休
席数:カウンター9席
今月の『東京カレンダー』は「奥目黒の磁力」特集。前号の「目黒」特集に引き続き、目黒の魅力をさらに深掘り。
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