一歩店内に入った瞬間に、自分が東京にいる事を忘れた。カウンターでは黒人バーテンダーがシェーカーを振る。作り出すのはヴァローナチョコを使ったマティーニ、フレッシュな果実を使うマルガリータ……。
次第にスーツ姿の外国人ビジネスマンが集まってくる。有名外資系ホテル出身のシェフが作るテンダーロインステーキやエビのカクテルなど、シンプルかつ豪快なフードを彼らは豪快に平らげ、酒を飲み、談笑する。
1930年代のNYにあったサパークラブに迷い込んだように心地いい酔い。遊びなれた大人だけが入ることを許される、知る人ぞ知る社交場だ。
もしカウンターの闇に浮かびあがる女性がひとりでいたら、映画のワンシーンのように気軽に話しかけていい。ここには、偶然の出会いが星の数ほどちりばめられているのだから。
見えないからこそ触れたくなる。 暗がりダイニングという媚薬
暗闇の中、香りで、食感で、触覚で、このときを 敏感に感じとろうとして研ぎ澄まされていく五感。 この暗がりの中でなら、もっと深く相手を感じとれるはず。
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