見えないからこそ触れたくなる。 暗がりダイニングという媚薬 Vol.1

親密な時を、研ぎ澄まされた技で愉しむ

フレッシュガチョウのフォアグラサラダ¥1,575。酸味の効いたフォンドヴォーソースで艶やかに仕上げた定番メニュー

ほの暗さは、否応なしに想像力を掻き立てる。「やりすぎって言われても、この雰囲気を貫きたかった」と、シェフの松野隆之氏。フランスの片田舎にある民家を再現したこの暗がりにおいては、眼前に座る相手の表情さえ捉えづらい。わずかな照明と燭台の炎が部屋の輪郭と手元を照らすだけ。

そこに並ぶのは、シェフが現地で会得した「本当のフランス料理」。ソースの酸味が心地よい「フォアグラサラダ」や胡椒が潔く効いた「鴨足コンフィとカスレ」を、嗅覚や聴覚を駆使して愉しむ。目が慣れると現れるのは、食器棚に見立てたノルマンディー地方の農具入れや、『ダム・ジャンヌ』と呼ばれる伝統的なワイン輸送用の瓶など。これらが輪郭を見せる頃には、ふたりの心も徐々に開けているはずだ。

最後に、カスタードをたっぷり含んだ「ガトーバスク」が運ばれてきた。この甘いデセールを自然にシェアできれば、今宵は完璧。店を後にする時、同じ灯の下で相手と美味しさを分かち合えた喜びが、穏やかに体に満ちてくる。

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