2023.03.17
週末は、ちょっといいワインを開けて、おうちシネマでのんびり過ごそう。
今月は米アカデミー賞も数々受賞した名作で、考察が楽しくなるラブストーリー。
フランス人の造り手も絶賛した日本の白ワインで、余韻に浸ろう!
▶前回:Vol.1「『ある天文学者の恋文』×イタリアのカシオぺ」
デモクラフィックを超越した真実の愛の物語
新谷:今回、柳さんに観ていただく映画は、ギレルモ・デル・トロ監督の『シェイプ・オブ・ウォーター』です。
嵩倉:2017年のヴェネツィア国際映画祭金獅子賞、同年の米アカデミー賞でも作品賞、監督賞、作曲賞、美術賞を獲得した名作ですね。
柳:ギレルモ・デル・トロというと、印象に残っている映画は『パシフィック・リム』。監督のカイジュー愛がビンビンに伝わってくる映画だけど、唯一残念だったのはカイジューが着ぐるみではなくCGだったことかな。
一方、『シェイプ・オブ・ウォーター』に登場する謎の生物は、特殊メイクと着ぐるみで、仮面ライダーといった等身大ヒーローものも大好きな僕はもうワクワク。
嵩倉:いつもながら、着眼点が普通の人と違いますね。
今月のワインシネマ『シェイプ・オブ・ウォーター』
【STORY】1962年の米航空宇宙研究センターが舞台。
サリー・ホーキンス演じる、声を発することのできない掃除婦イライザは研究のため人間に捕らわれた不思議な生きもの“彼”に出会う。手話を通じて仲を深めたふたりの、種族を超えた恋が描かれる。
クライマックスの水中シーンは現実と寓話が混ざり合う圧倒的美しさ。
どんな過酷な状況でも恋は生まれるとても美しく、とても切ない“ピュア”なふたりの恋物語
柳:この映画、監督が幼い頃に観た『大アマゾンの半魚人』をベースにしているらしいけれど、あの映画の半魚人はウルトラマンシリーズにも影響を与えていて、ラゴンという怪獣の原型になっている。
ラゴンという名前も『大アマゾンの半魚人』の原題”The Creature from The Black Lagoon“のラグーン(礁湖)が語源とか。
嵩倉:さすが怪獣オタク。
新谷:ゴホン、ちょっといいですかね?この映画は特撮や着ぐるみを楽しむ娯楽映画ではなく、声の出せない女性と不思議な生き物との人類を超越したラブストーリーなんです。
物語の軸はイライザと“彼”のラブストーリーだが、米ソが宇宙開発で火花を散らしていた時代背景を寓話のなかに取り入れることにより、人種差別、不平等、核戦争の恐怖など、当時を生きた大人たちのさまざまな葛藤も描く。
◆
柳:失礼しました(汗)。
巨大ロボット映画の『パシフィック・リム』も、異次元人が地球にカイジューを送り込んでくる理由が、オゾン層の破壊や空気や水の汚染で「ヤツらに適した環境になったから」と、現代の環境破壊を暗に批判しています。
『シェイプ・オブ・ウォーター』も、障がいを持つヒロイン、アフリカ系の同僚、同性愛者の隣人、そして異形の生物など、さまざまな裏テーマが隠されていますよね。
新谷:舞台は米国と旧ソ連が宇宙開発を競い合い、キューバ危機も勃発した1962年。米社会には差別や不平等がはびこっていました。
そんな恐怖に包まれた時代でも愛は生まれるのだと、ギレルモ・デル・トロ監督は言いたかったのだと思います。
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