オトナの卒業 Vol.1

オトナの卒業:出会ったその日に“男女の仲”になったけど、ずっと曖昧な関係のまま。しびれを切らした女は…

休日の表参道には、案外オシャレな人が少ない。むしろ、私みたいな人ばかりだから安心してしまう。

でも、わかっている。

東京には、ちゃんと個性があって芯があって、素敵な女性がたくさんいることを。

それを見たくないから、見ないようにしているのだ。

駅を目指し歩き始めた時だった。握りしめていたスマホが振動する。

『拓実:休日出勤だったんけど、仕事終わった。これから行っていい?』

― やっぱり連絡きた!!


いつもの一方的な連絡。それなのに、どうしてこんなに嬉しいのだろう。

すぐに返信してはいけないのはわかっている。でも、早く応えなければ他の子に取られてしまうかもしれない。

私は素早く返信した。

『メグミ:いいよ。何時になりそう?』

私は冷静を装って絵文字もスタンプもなしの文字を送った。でも、胸の鼓動が鳴り止まない。

― これは、誰がなんと言おうと恋。私は、ちゃんと拓実くんが好きだ。

このときは、そう思っていた。


「メグちゃん、美容院に行ったの?」

拓実くんは、帰る準備をしながら私に言った。

「気づいてくれた?カラーとカットをね…」

「サロン帰りの髪の匂いがするから。そういうのわかるんだよね〜」

彼は、私の話を遮りながら言い、冷蔵庫を勝手に開けてビールを取り出した。

彼がうちに来たのは18時過ぎで、まだ2時間も経っていない。

このあと誰かと予定があるのだろうか。「夕食どうする?」とは聞けなかった。

「女の子って大変だよね。お店で定期的にトリートメントしないと髪バサバサになっちゃうし」

― 誰の話をしているの?

拓実くんのために行った美容院。かわいいと思われたくて払った2万円、美容師との気まずい会話。

それらを思い出すと、私はホトホトばからしくなり、思わずこうつぶやいていた。

「…もう嫌だ」

私の何かが、プツっと音を立てて切れた。

いきなり会いに来て、バスルームを汚し、勝手にお酒を飲んでいく。

彼が私に何か買ってきたことはないし、最近は夕食も一緒にとらない。

こんなに雑に扱われているのに、どうして私は“拓実くんのことを好き”だなんて思っていたのだろう。

「そのビール、全部飲んでいってね」

私は、彼に初めて指摘をした。


「……え?なんで?」

拓実くんは驚いた後で、すぐに不満を顔に出した。

“俺はかっこいい年下の男。何をしても許される”そんな関係が壊れたからだろうか。

「じゃあ、飲まなくていいから早く帰って。もう会うのもやめよう」

こんな強い口調で、誰かに冷たい態度をとったのは初めてかもしれない。

でも、それは意外と普通にできた。これまで男の人に対して嫌われないように必死だった。

量産型で個性のない私を、愛してもらうために、尽くすことしか思いつかなかったから。

でも、そんな思考は今日で卒業したい。

「バイバイ」

私は、拓実が出て行ったあとの玄関でつぶやいた。



それから1ヶ月後。

私は、担当の美容師が独立したのを機に、別のヘアサロンに行くことにした。

いつもは、サロンのお任せで美容師を選んでもらうけど、今回は、Instagramで見かけた女性のスタイリストを指名した。


「本当にバッサリいっちゃって大丈夫ですか?」
「はい。お願いします」

意味もなく伸ばし続けた髪を、自分の意思でショートカットにした。

それは“周りと同じ”でもなく、“モテそう”でもなく、私がしたい髪型だ。

― わぁ、すごい!!

完成したヘアスタイルに、思わず笑みがこぼれる。

「短いのも似合いますね!うん。絶対こっちの方がいい」
「ありがとうございます」
「あ、それと…さっき話してたお店、ここです」

私は、スタイリストに教えてもらった表参道のセレクトショップに向かった。

彼女が、すごくオシャレだったから参考にしたくなったのだ。


「メグちゃん!」

スマホで地図アプリを見ながら、表参道を歩いていると急に名前を呼ばれた。

― 拓実くん…しかも、デート中?

「全然わかんなかった。髪切ったんだ!めっちゃ似合ってんじゃん。この後ひま?飲みに行こうよ。おごるから」

「......」

一方的に決める拓実。相変わらずの自己中心的な発言に、私は落胆した。

一緒に食事したことなど数えるくらいしかないのに、いつもそうしているかのような口ぶり。

そもそも、横にいる女性はどうするのだろうか。

しかし、彼なら今ここで彼女と解散することも簡単なのだろう。そういう男だから。

もう彼に振り回されるつもりはないし、いつでも会える女もやめた。

「拓実くんも早く気づけるといいね」
「ちょっ、メグちゃん。待ってよ!」

私は、拓実の呼びかけを無視して歩き出した。

これからは、もっと自分のことを大事にしようと決めた。

そうすれば、相手のことも大事にできるし、きっと男性も私のことを大切にしてくれるはずだ。

私は、“量産系女子”からも、“名前のない関係”からも卒業する!

そう決意して、過去の自分を断ち切るように、早足でセレクトショップに向かった。


▶他にも:交際1年の記念日ディナー。プロポーズを期待していたが、彼の口から出たのは意外な言葉で…

▶Next:3月9日 木曜更新予定
マッチングアプリで知り合った男性とデート!でもなぜか、2回目のデートにつながらない女が登場

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この記事へのコメント

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No Name
アプリで知り合って、会ったその日に一線超えるのはいくらなんでも早過ぎ。だから、いつも正式な彼女にはなれなかったんだね。勇気を出して見切りつけて良かったよ。
2023/03/02 05:4770返信5件
No Name
オトナになったら ”卒業式“ はないけど
冒頭のこの部分はどうかと思ったけれど、読んだらなかなか面白かった。好きになり過ぎてしまうタイプでもあるのかな?だから言いたい事全く言えず言いなりになってしまう....😭
2023/03/02 05:4452返信3件
No Name
好きな人から、今から家行っていい?の連絡待ち状態って辛いよね。何となく友達との予定も入れないようにして完全ウェイティング状態で毎日を過ごすのはキツい思う。本当にそんな恋愛(今までのメグミ自身) から卒業出来て良かったよ。
2023/03/02 06:3639返信1件
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