
「ラランド」サーヤが書き下ろし!“港区の代理店時代”の葛藤と、いま“渋谷”を愛する理由
『M-1グランプリ2019』で注目を集め、今や人気芸人として活躍するラランド サーヤ。
上智大卒、元広告代理店勤務という経歴を持ち、現在は社長として渋谷に個人事務所を構える。
そんな彼女に、辿り着いた街・渋谷への想いを書き下ろしてもらった。
港区でおじさまの接待に明け暮れた、代理店時代
東京カレンダーから渋谷についてのコラムを、という依頼をいただいた。てっきり港区以外の街はお見下しになっていると思っていたので驚愕した。
毎日過ごしている渋谷がテーマなら、と安心したのと同時に、下積み時代を消費した街のことを思い出した。
社内のGoogleカレンダーに「会食」とだけスケジュールを入れられた時は、大抵業界のおじさまとのコンパだった。招待を受け入れ、概要をクリックすると"21:00〜@六本木"とだけ補足されている。
社会人2年目。後輩はできたけれど責任感は急拵えで、甘んじて先輩にケツを拭いてもらえる時期だ。直属の先輩は体育会系出身の女性で、あざとさのない社交性とノリの良さを持ち合わせていた。
クライアント役員クラスの殿方を前にして右に出る者なし。丁寧なプレゼンと下心をチラつかせた接待のダブルコンボで年間契約をとってくるものだから、誰も逆らうことはできなかった。
業務を切り上げパソコンを閉じると、会社の女子トイレに向かう。人数合わせ、そうわかっていてもしっかりメイク直しをしている自分が気持ち悪い。
「ちゃんと濃い赤のリップを選んでいるじゃないか」そう責められたらちょうど良い言い訳が思いつかない。
先輩とタクシーに乗り込み向かった先は、小洒落た博多料理の店。
寝室より薄暗い個室の座敷に通されると、ネタバラシをされる。これから来るのはどういう人間で、今回のコンパを乗り切るとどういう利益をもたらしてくれるのかの説明。
試合直前にモチベーションを上げにくる先輩は、やはりやり手だった。
待ち合わせから少し遅れてザ・業界人が到着する。貼り付けたような笑顔で迎え入れ、とにかく酒を飲む。酔いが回ったところで、カラオケに流れ込み、喜びそうな歌謡曲を歌ってと合いの手を入れる。めちゃくちゃ体とか触られる。
そして次の日にはお礼メールとともに、何かしらの仕事を受注している。こんなことの繰り返しだった。