SPECIAL TALK Vol.98

~分野を問わず、そのときの自分にできることを。あらゆる経験を生かしてフードロス問題に挑戦したい~

金丸恭文氏 フューチャー株式会社 代表取締役会長兼社長

大阪府生まれ、鹿児島県育ち。1989年起業、代表取締役就任。


外に向かわずパイを奪い合う日本の食産業の問題点


金丸:山田さんのような人が、日本の食に携わるビジネスを立ち上げられたことを、とても心強く感じています。

山田:日本にとって、食は一番の武器になるはずです。47都道府県すべてにおいて、訪日観光客が来る理由の1位が食ですから。

金丸:長期のデフレや最近の円安によって、今や日本は「世界で一番安くて美味しい国」ですからね。だけど、「2年先まで予約がいっぱい」みたいな人気店は、きちんと値上げをするべきです。お店としては「この値段で提供したい」という思いもあるでしょうが、トップが引っ張らないと業界は成長しません。食に限らず、トップに躍り出ようという存在がなかなか出てこないのが、日本の課題です。

山田:アメリカのエンターテインメント業界を見ていると、俳優のギャランティや待遇について交渉するエージェントの仕事がいかに重要か分かります。俳優やスポーツ選手だけでなく、食の世界でもそういうエージェントマネージャーが活躍するようになると変わるでしょうね。

金丸:エージェントマネージャーの役割は、価値を伝えて売り込むこと。「これは3万円でしか売れない」と思っている人に「これだったら10万円でも売れますよ。私がお客様を見つけてきますから」と。

山田:日本の場合、個々のプレーヤーだけでなく、国としても、もっと力を発揮してほしいです。

金丸:そうですね。料理人や生産者など、食にかかわる人たちがそれぞれ頑張って盛り上げているけど、国のバックアップやフォローがほとんどないのが現状ですから。

山田:私たちが美味しい料理を食べられるのは料理人がいるからだし、もっと言えば、生産者あってこそです。たとえばフランスだと、一般の人も彼らをきちんとリスペクトしているし、勲章が与えられることだってあります。

金丸:ニューヨークだと、寿司職人の募集で年俸2,000万円というのも珍しくありません。

山田:日本はいろいろな分野で、アジアの国々に追いつかれはじめています。なのに、いかにパイを分け合うかばかりで、パイを増やす発想がない人が多くて。

金丸:これまで日本は自国の農業を守るため、いかに輸入を阻止するかばかりに力を入れてきました。だから輸出することまでには頭が回らず、国際規格も取ってこなかった。そのせいで、日本の米はいまだにヨーロッパに輸出できません。東京オリンピックでは、選手に提供する食事に日本の野菜を使えなかったという話もあります。それも、国際規格の関係です。結局、使われたのは外国産の野菜。ブランド管理やタネや苗の保護についても後手に回っていて、WAGYU(和牛)はオーストラリアが商標を取っているし、日本生まれのシャインマスカットは中国や韓国に流出し、大量生産されています。損失は計り知れません。

山田:もったいないですね。昔はみんな「シャンパン」と呼んでいましたが、今では「スパークリングワイン」に変わりました。これは知的財産権のGI(地理的表示)を保護し、シャンパーニュ地方で作られたもの以外を「シャンパン」と呼べなくしたからです。世界の事例と比較すると、日本はブランドや知財の分野にかなり疎いというか、弱いですよね。

金丸:競争力を高めて、国内ではなく国外に目を向けなきゃいけないというのは、観光も同じです。都道府県や地域同士で、訪日外国人を取り合ってもしょうがありません。

山田:そうですね。「日本に来てくれた方をどうやって自分の県やお店に呼ぶか」ではなく、まず「どうやって日本に来てもらうか」を考えることができたら、状況は良くなるはずです。

誰もがかかわる食を切り口に日本と世界を良い方向へ


金丸:山田さんのように広い視野を持つ方には、ぜひ政府系の会議に参画してもらって、おかしいところをどんどん改革してほしいです。

山田:実は、これまで結構声をかけてもらったのですが、いろいろ言い過ぎて、それ以降呼ばれなくなりました(笑)。と言うのは冗談で、今は内閣府クールジャパンのプロデューサーや東京ベイeSGプロジェクト国際発信イベント実行委員等を務めさせていただいています。

金丸:食を切り口に地域活性化やブランディング、企業や個人の行動を変えていくなど、これからも多方面で活躍されることでしょう。

山田:私としては「みんなが幸せになる」くらいしか、明確な目標はないんですけど。

金丸:「食べ物を残したらもったいない。どうにかしよう」って、それこそがみんなを幸せにすることにつながると思いますよ。

山田:ブランド品を買わない人はいても、食事をしない人はいませんからね。食に気を使うことは、言うなれば「ひとりでできるちっちゃい脱炭素」です。

金丸:私のような世代に比べて、今の若い人たちの環境に対する意識は相当高いですからね。

山田:彼らは、たとえば「人を殺しちゃいけない」「物を盗んじゃいけない」と同じくらい、「環境について考えて行動しないと、将来食べるものがなくなる。住む場所がなくなる」と言われて育っています。だから本気なんです。

金丸:SDGsの本質を理解しないまま、取り組むポーズをしているだけの企業も少なくないと思います。そんななか、FOOD LOSS BANKが環境にいいだけでなく、格好よくて、関係者全員にメリットがあって、しかもきちんと儲かるというビジネスモデルを確立させてくれたら、日本全体に大きな好影響を与えてくれるはずです。

山田:そもそも、日本はSDGsなんて言われる前から「お米のなかには神様がいる」と考えたり、もったいない文化があったり、物を大事に使う文化がありました。そういう文化も世界に発信していきたいですね。伝えるのが下手だから、「日本は何もやってない」と言われてしまうので。

金丸:おっしゃるとおりです。日本もいつまでもシャイで口下手なままではいられません。山田さんのご活躍で、日本の評価が変わっていくことを楽しみにしています。今日は本当にありがとうございました。

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