2022.10.05
恵比寿Sisters Vol.1その後、小さな子どもを持つ千奈津はすぐに帰宅した。
一方、宴席で若手男性スタッフたちの太鼓持ちにはしゃぐマリは、諒子を末席に放っておいたままだった。
「キャハハ。そんなことないですよぉ~」
イケメンスタッフのヨイショに、甲高い声を上げるマリ。
諒子はひとり、その耳障りな声をBGMにワインを飲み続ける。
マリは大学在学中から、アナウンサー事務所に所属し、その華やかさで学校内でも注目を浴びていた。
そして仕事がきっかけで、プロ野球選手の夫と知り合い、卒業後すぐに結婚。
以来ずっと専業主婦のはずだが、メジャー移籍するほどの有名選手の妻ともなると、想像以上の浮世離れな生活をしているようだ。
普段は彼女のInstagramの投稿をミュートにしているため、諒子はたまに覗く程度だが、彼女のアカウントにはいつもNYやロサンゼルスの邸宅での華やかなパーティーの様子や、夫のために作った見栄えのいい料理の数々が掲載されている。
『彼女と私は世界が違う』
嫉妬ではなく、品のない浪費への蔑みの感情であるが、ミュートを解除して見にいくたびに諒子の胸はざわつく。
今もそう。そのイライラは下手な肴よりアルコールを進ませている。
いつの間にか、諒子はひとりでワインを一本空けていた。
「大丈夫?」
ふと気がつくと、ガーデンプレイス前の路上。諒子の隣には、マリがいた。
「私ね、ウェスティンに部屋をとっているの。タクシー乗り場まで送るよ」
ふらついている諒子は、うっとおしく思いながらも、彼女に頼らざるをえなかった。
「いい、歩いて帰る。家、近くだから」
「え、諒子まだ独身だよね。彼氏もいなそうだし、ひとりで恵比寿に住んでいるってこと?すごーい」
言葉の端々が鼻につく。諒子は思わず同じテンションで対抗した。
「そーよ。ずっと仕事が恋人。おかげで部屋も有り余るくらいの広いマンションの部屋を最近買っちゃってね」
「えー、有り余る部屋なら、私も住める?」
「住める住める。いつでもきて~」
酔いが気分を高揚させ、口がなめらかに滑っていた。
― …まさか、あの言葉を本気にしたの??
諒子が記憶をたどっている間に、マリは勝手に家の中を探検し始めていた。
「言うほど広い部屋じゃないよね。NYに住んでいたときの家のリビングと同じくらい」
口をとんがらせて言う彼女。
― 一応、ベランダ含め、100平米近くある。しかも東京の中心部なのに。
怒りを通り越して諒子は呆然としていた。「きっと、冗談で言っているだけ…」正常性を保つため、そう心の中で自分に言い聞かせる。
「私、こっちの部屋でいいかな。クローゼットも大きいし」
「は?」
マリが指を差したのは、諒子がシアタールームとして使おうとしていたリビングに次いで広い部屋だった。
当然のように玄関のスーツケースを運び入れるマリの姿を見て、諒子はやっと我に返る。
「まさか…本気なの?」
マリは部屋に来て初めて長く沈黙した。そして、うなずく。
「私ね、離婚、するんだ」
「え?」
諒子は、マリがこの部屋へ突然押しかけてきた理由に納得するとともに、返す言葉が見つからなかった。
▶他にも:プロ夫婦:1度結婚に失敗した女が次に選んだのは、収入も年齢も下の男。彼とだったら、理想の家庭が…
▶Next:10月12日 水曜更新予定
ずうずうしく家に押しかけてきたマリ。ストレス満載の同居生活が始まるが…
【恵比寿Sisters】の記事一覧
2023.01.04
Vol.15
「私たち結婚します」友人のめでたい報告を素直に喜べない女。それには理由があって…【番外編】
2022.12.28
Vol.14
「俺と結婚したいから“妊娠した”って嘘ついたんだろ」男のひどい言葉に、女は耐えきれずに…
2022.12.27
Vol.13
仕事一筋の35歳女を変えたのは、迷惑な同居人?「恵比寿Sisters」全話総集編
2022.12.21
Vol.12
「妊娠しました」彼にLINEで告げるも音沙汰なし…。堪りかねた女が自宅へ乗り込むが…
2022.12.14
Vol.11
浮気を繰り返す男との別れを決断した女。その矢先、追い打ちをかける悲劇が…
2022.12.07
Vol.10
タクシーで家に帰ったはずの彼氏が別の場所に!?アプリ決済で判明した男の嘘
2022.11.30
Vol.9
「そんな自分勝手な理由で…」離婚理由に納得できない女が男を追い詰めると…
2022.11.23
Vol.8
「もう無理…」夫と久々に密室でふたりきりに。そのとき男が放った衝撃のひと言とは
2022.11.16
Vol.7
離婚間近の35歳女が向かったのは、夫以外の男の部屋。その驚きの口実とは
2022.11.09
Vol.6
「私の彼にまで手をだしていたなんて…」親友の告白に困惑した35歳女は…
おすすめ記事
2021.01.31
悪い女
悪い女:「キスだけでもいい…」43歳男に、1回の買い物で100万円以上使わせる17歳年下女の正体
- PR
2025.03.21
外食続きで疲れ気味…?グルメな東カレ編集者が絶賛する“美味しいエネルギーチャージ法”
2021.12.31
甘い墜落
年越しは浮気相手と…。「彼氏と別れたの」と嘘をつき、年下男子と過ごす大晦日
2022.03.18
パーフェクト・ウーマン~都心5区の女たち~
パーフェクト・ウーマン~都心5区の女たち~:「あとは御三家合格」中央区の女の“完璧な人生計画”
- PR
2025.03.24
週末ブランチは“泡酒フリーフロー”で豪快にいけ!春一番を感じられる、六本木の名門ホテルは…
2017.04.11
私、美人じゃないのにモテるんです。
「ライバルを○○するのは駄目」美人じゃないのにモテる女しか知らない、ある流儀
2016.10.19
秘書の秘め事
秘書の秘め事:デキる秘書の必殺技!ビジネス必勝のレストランや手土産は、どう選ぶ?
2019.03.21
姉妹格差
姉妹格差:男も金も手に入れた超絶美女の姉と、虐げられてきた妹。27歳の女が、結婚式で受けた屈辱
2024.01.21
男と女の答えあわせ【A】
「派手だけれど、家庭的な女性が好き」理想を語る男に対し、女が感じる本音
2021.12.16
抱かれた夜、抱かれなかった夜
「付き合う前に、絶対お泊まりしたい」変わったこだわりを持つ女が、3回目のデートで男に迫ったら…
この記事へのコメント