2022.05.27
― 恋愛って、難しい…。
タクシー乗り場を背にした哲也は、駅舎の周りをとぼとぼと歩いた。
哲也は、大手広告代理店の営業職だ。クライアントからの評判がかなり高く、同期の誰よりも出世が早い。
一方で、恋愛はズタボロ。
背が高く顔立ちも整っているせいか、社内の女性たちからは「絶対モテるでしょ」とよく言われるのに、実は全然モテないのだ。
最後に彼女がいたのは、もう3年前。
元カノはエリカという同じ部署の事務をやっている2つ年下の女性で、美人なのに親しみやすい彼女は男性人気が高かった。
哲也は浮かれていたが、付き合って数ヶ月で突然「もう別れたいの」とフラれてしまった。理由は、教えてもらえなかったが、ほかの男に乗り換えたらしいと、後に同期の女子が教えてくれた。
― だいぶひきずったもんなぁ。
家に帰り、ため息をつきながら手を洗っているとき、ふと鏡に映った自分の顔を二度見してしまった。
マスクで隠れるからか日中は気にならなかったが、肌はくすみ、シミが目立っている。朝剃ったヒゲは伸び、ひどい顔だ。
さすがに何か手入れが必要そうである。哲也は重い腰を上げ、いつ買ったかもわからないメンズ用化粧水を、洗面台の扉から引っ張り出した。
もしかしてこの顔を見て、栞里は嫌になってしまったのだろうか―。
レジェンド級モテ男の秘訣とは・・・?
1週間化粧水を使ってみたが、特に変化はない。気になって会社の化粧室でまじまじと自分の顔を見ていたとき、マネージャーの剛志がやってきた
「おう、哲也。お疲れ」
剛志は、哲也の直属の上司だ。身長もあって、任されている予算もすべてが“ビッグ”なため、剛志のあだ名は「ビッグボス」。
社内イチ評価が高いマネージャーなうえに、イケメンで色気もあり、憧れの先輩なのだ。
「なに?鏡をそんな見て、どうしたんだ?」
哲也は、恥ずかしさで顔に血が上るのを感じる。
「いやぁ…。実は、ちょっと肌が気になり出して」
すると剛志は苦笑した。
「なーに恥ずかしそうにしてんだよ。肌のケアなら俺もしてるよ」
確かに、剛志の肌はつややかだ。
「剛志さんが?…化粧水とか使うんですか?」
「もちろん。でも化粧水は、根本的なケアにはならない」
哲也は「え?」と首をかしげる。
「ほら、男って髭剃りが原因で肌荒れとかしないか?だから俺、『レジーナクリニック オム』に通って医療脱毛してるんだよ」
― 『レジーナクリニック オム』?…医療脱毛?
「はは…ちょっと僕にはハードルが」
「って思うだろ?1回行ってみ?」
剛志がマスクを少しずらして笑うと、白い歯と綺麗な肌がチラりと見えた。
「俺も最初は抵抗あったんだ。でも彼女に勧められるがままカウンセリングに行ってみた。今じゃ、感謝しっぱなしだよ。最初はヒゲから始めたんだけど、他の部位もやりたくなって、いまは全身やってる」
「全身ですか!?」
哲也は、思わず剛志の腕を見た。まくり上げた袖から覗く腕や手指は、たしかに清潔感がある。
「肌をケアすると、自分に自信がつくんだよ。もはや脱毛は、紳士の新常識だよね」
「自信か…。たしかに欲しいです」
思わず本音が漏れる。
実はあれから、栞里に連絡できないままだったのだ。
◆
その週の土曜。
哲也はさっそく『レジーナクリニック オム』に来ていた。
脱毛サービスというと無理な勧誘があるかなと身構えていたが、クリニックということで実に誠実な対応で無用な心配だった。
脱毛の仕組みやプランをじっくり聞かせてもらい、特にヒゲ周りを中心とした顔全般の脱毛に興味を持ったため、「ヒゲ脱毛 Aコース」を納得して契約。
栞里にキスを拒否されたトラウマから自信を失っていた哲也だったが、脱毛の効果を実感できたら、もう一度アタックしてもいいかもしれない。
栞里からの好意は確実に感じていたのだ。どうにかリベンジデートがしたい。
ようやく、そんな気持ちが芽生えてきていたのである。
おすすめ記事
2024.02.20
今日、私たちはあの街で
上京4年の26歳女子。美人で性格良しの芦屋育ちのお嬢様が、アプリで男から避けられる理由とは
2023.12.10
男と女の答えあわせ【A】
初デートで手を繋いで家まで送ってくれた33歳男。その後、彼が急に冷たくなったワケとは
2024.05.05
男と女の答えあわせ【A】
お財布は出すけれど…。デートの会計時に男が驚いた、31歳女のとんでもない奢られテクニック
2021.10.23
Miss 東大生ハンター
東大卒の真面目なキャリア官僚。でも週末、彼はスーツを脱ぎ捨て意外な趣味に…
2018.06.26
恋と友情のあいだで 〜里奈 Ver.〜
恋と友情のあいだで 〜里奈 Ver.〜:金と力のある男の相手をするのは、若く美しい女の義務だと思っていた。
2016.05.11
外資系金融で働く女のレストラン事情
年収数千万。31歳外資系金融女性の外食生活
2022.08.06
30歳を過ぎても
30歳を過ぎても:「生活水準は下げられない」港区にしがみつく32歳女が、副業先のバーで流した涙
2017.04.09
イケダン!?
イケダン!?:部下とのランチ代、1,000円さえ払わない。残念過ぎるイケダンの実態
2023.02.16
29歳のグレー
29歳ハイスペ男が“収入と肩書”を捨てて…!?どうしても諦めきれない夢とは
2021.06.30
へんなかねもち図鑑
“ある失言”で、その場が静まり返り…。由緒正しき名家との婚約顔合わせで起きた事件
東京カレンダーショッピング
『佐藤養助商店』:門外不出の技による、喉ごし滑らかな"稲庭干饂飩"
『かに物語』:ふっくらと肉厚な一本爪が2本入ったフレンチカレー
『西岡養鰻』:特製タレ付き!脂の乗った高品質な鰻を土佐備長炭で丁寧に焼き上げた蒲焼
『マルヒラ川村水産』:ご飯に載せて贅沢いくら丼!1粒1粒に旨みが凝縮された、とろける食感の北海道函館産天然いくら
『North Farm Stock』:北海道産ミニトマト使用!糖度が高く、コクとうまみがたっぷり詰まったトマトジュース
『ル・ボヌール 芦屋』:フリーズドライフルーツにホワイトチョコがたっぷりと染み込んだ新感覚スイーツ
『HAL YAMASHITA 東京』:シルクのようななめらかさ!冷え冷えトロリの新食感"ウォーターチョコレート"
ロングヒット記事
2024.11.18
恋のジレンマ
アプリで出会った女性と初デート。女が困惑した、男が渡した妙なプレゼントとは
2024.11.22
年収4,000万男子の恋愛事情
結婚に焦る31歳女が犯した致命的ミス。せっかくハイスペ彼氏ができたのに…
2024.11.21
かわいく生きられない女たち
毒吐き用のSNSアカウントが、彼の親にバレた!慶應幼稚舎出身、27歳女の裏の顔とは
2024.11.23
男と女の答えあわせ【Q】
「1日2回は多い?」付き合う前のアラサー男女。適度な連絡頻度の正解は?
2024.11.20
東京レストラン・ストーリー
原宿のおしゃれな2LDKで「ルームシェア」する24歳女。でも、現実は一緒に住むのは難しくて…