アイドルの次に狙うは、玉の輿。
どんなに女性が経済力を得ようが、自分より圧倒的に稼ぐ男をものにしたい、と思うのはごく自然なことだと思う。
経済的な余裕だけじゃない。ハイステータスな男性に認められたという事実は、勲章になるから。
<紗英:今日、20時にいつものところね。今日はIT企業の社長さんたち、結構有名な人ばっかくるみたいだよ>
<凜香:了解♪>
2時間のライブをやりきり、楽屋に戻ってすぐに夜の予定を確認する。
私は、そんな勲章を求めて活動を始めたのだ。
婚活なんていうチープな言葉では表現したくない。これは、ライフハックの一つとでも呼ぼうか。
ちなみに、私が求めているのはそんじょそこらのハイスペックじゃない。ひと昔前だったら高額納税者ランキングに名を連ねるような、宇宙旅行に連れて行ってくれるような、そんなレベルの男。
私だってトップアイドル。
そんな男の妻の座に、値するレベルの女でしょ?
真帆:「目障りなのよ…」
<アイドルの凜香さんが、東京ドームで初めての単独ライブを行いました。会場は凜香さんのファンで溢れかえり…>
チッ…。
情報番組から流れてくる不快な情報に、私は無意識のうちに舌打ちをしていた。
― 長谷部凜香。
私がこの世で最も嫌いな5文字。私の天敵だ。
高校で同じクラスになったその瞬間から、私と凜香は相いれなかった。ずっと敵対したまま。
あの顔を見ると、どうにもむしゃくしゃしてしまう。
それなのに…。
卒業して何年も連絡は取っていなかった。存在すら忘れかけていたのに、数年前、突然アイドルとしてブレイクした。
突如、こうして彼女がふいに視界に現れるようになったのだ。
不愉快になった気分を強制終了させるため、私はTVの電源を落とし、スマホを開いた。
<千秋:今日、20時にこの店ね!今日は商社マンだよ~♪>
<真帆:了解ー!>
今日も、お食事会。
私は気を取り直して、鏡を見つめた。
鏡に映る完成された自分の顔を見ると、少しずつだが気分が明るくなる。
女って、本当に単純だ。綺麗に着飾れば、大抵のことはどうでも良くなってしまう。
つい最近やったハリウッドブロウリフトのおかげか、顔立ちがいつも以上にくっきりして見える。シャネルのスモーキーなアイシャドウも、私の目元によく馴染んでる。
完璧な姿をまじまじと見つめてから、私は家を出た。
今日からまた、凜香との直接対決が幕を開けるなんて知らないまま…。
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