すべてが変わってしまった、1週間前の出来事
いつもと同じような朝だった。
家族3人で朝食を取ったあと、たっぷりと朝日が差し込むリビングで、私は絵麻の薄茶のくせ毛を編み込みにする。
その横で、孝之が慌ただしく身支度を整えていた。電気シェーバーでヒゲを整えながら、コンパクトなリモワのトランクに必要な荷物を放り込んでいく。
「出張なんて久しぶりだから、何を持っていくべきなのか、わからなくなってるな。とりあえずスマホの充電器だけ持っていけば大丈夫だよね」
充電ケーブルをクルクルとまとめながら、孝之が私に話しかける。
「出張って言ったって、大阪にたった1泊でしょ?足りないものがあれば、あっちで買えばいいじゃない」
「まあ、そうなんだけどね。新幹線に乗るのも久しぶりだし、なんだかワクワクしてるんだよ」
私の提案にいたずらっぽく答える孝之は、今年で40歳になるというのにまるで絵麻と同じくらいの子どもみたいだ。
これでも、そこそこの規模の不動産会社の経営者だというのだから、時折心配になってしまう。
「まずい!もうこんな時間か。下にタクシー待たせているからもう行くよ」
慌ただしく出ていく孝之を玄関まで見送るのも、結婚してからほとんど毎日続いている習慣だ。
「行ってらっしゃい。出張、気をつけてね」
「行ってきます。美郷、愛してるよ」
見送る私の頬に、孝之はそう言って小さなキスをする。
そんないつものやりとりを、ちょうど制服に着替え終わった絵麻がしっかり目撃していた。
「もう、パパったら!絵麻が見てるじゃない。いい歳していやになっちゃう」
気恥ずかしさのあまりそんなセリフでお茶を濁すけれど、お調子者でいつまでも恋人のように振る舞いたがる孝之は、いつだって娘の前でもお構いなしだ。
そんな私たちを見慣れている絵麻も、いつもと同じように冷やかしの言葉を投げかけてくる。
「ねえ、パパ。パパって本当にママのことが大好きだよねぇ」
「そうだよ。でも大丈夫だぞ!パパはもちろん、絵麻のことも愛してるからね!」
じゃれあう2人が「いってきます!」の挨拶とともに弾丸のように飛び出していくと、家はまるで別世界のようにすっかり静かになった。
私は玄関で大きく伸びをすると、リビングに戻って朝食の後片付けにとりかかり、自分のためのコーヒーを入れる。
ここまでは、いつもと代わり映えのしない朝だった。
だがこの日は、コーヒーを持ってソファに腰を下ろしたとき、目の前のテーブルにあるものが置いてあったのだ。
私1人となったこの家に、いつもならば存在しないもの。
それは、孝之のスマホだ。
「え…?孝之ったら、出張なのにスマホ忘れてる!」
充電ケーブルをトランクに入れても、肝心のスマホを忘れていたのでは世話がない。
すっかり呆れてしまうが、無視するわけにもいかないだろう。だが、孝之に連絡を取ろうにも、スマホがここにあるのだから手の施しようがない。
「どうしよう。品川まで急いで追いかけて、届けたほうがいいのかな…」
大阪には新幹線で行くと言っていた。自宅の白金からタクシーに乗って、品川駅の港南口までは10分もしないはずだ。孝之が出ていってから、もう15分近く経つ。
急いで追った方がいいだろうか?それとも、私が着く頃には発車してしまうだろうか。
とりあえず、何時発の新幹線なのか、確認しなければいけない。
きっと、このスマホでLINEを開いて、秘書の木村可奈さんとのやりとりを見れば書いてあるはず。
勝手にスマホを見るのは気が引けるけれど、事情が事情。非常事態。そう判断した私は、意を決して孝之のスマホに手をかける。
パスコードは、すでに知っているのだ。
この記事へのコメント
って題名再構築夫婦だし、1ページ目に再構築を始めたばかりって書いてあるのにそれともがあるの?雑じゃない?