2021.11.11
私の年下くん Vol.2「颯は最近、試合に出ることも増えてきて、なかなかやるんですよ!うちのブランドのアンバサダーも、してもらっているんです」
「やめてくださいよ」と黒木さんの言葉を遮りながらも、まんざらでもなさそうな颯。
「ごめん、颯くん。私、失礼なこと聞いちゃったね」
「いえ、大丈夫です。じゃあ、多佳子さんも俺のこと知らないですよね?」
「あ、いや、うん…。ごめん、知らなかったです」
颯は、美智子に大丈夫と言いながらも、わかりやすく不機嫌な顔になる。
つい私は、話の流れで知らないふりをしてしまった。初対面でにらみつけてくるような強気な年下男に「知ってます」と答えて、ミーハーな女だと思われたくなかったのかもしれない。
もし「試合を見に行きました」と言ったところで、サッカーは11人制のスポーツだと知ったばかりの私と、プロサッカー選手だ。共通の話題がまったく思い浮かばない。
飲んで食べて、この場をやり過ごそう。そう心に決めると、美智子から「黒木くんは私たちの年齢知ってるから、颯くんも聞いてると思うよ」と耳打ちされた。
黒木さんは、7歳年下。察しがよくて気が利くし、店選びのセンスもいい。恋愛対象になると思う。でも、黒木さんは明らかに美智子狙いだと、視線や体の向きでわかる。
2人が会話に熱中しはじめると、私は何となく手持ち無沙汰になってしまった。
目の前の颯はそんなことはお構いなしに、ディナーコースのメインである牡丹肉を黙々と食べている。
― ていうか、私つまらないんだけど。年上の男性との食事だったら、会話からはぐれる人がいないように気を利かせてくれるのに…。
そんなことを思いながら、特にすることもなくボーッと颯を眺める。料理を食べ終えた彼は、私の視線に気がつくと、慌てたようにワイングラスを空にした。
けれど、食事が済んでからも、どこかよそよそしさのある颯とは会話が弾まなかった。
居心地の悪さを感じた私は、トイレに向かおうと個室を出る。
「ねえ!ねえってば!」
後ろから声をかけてきたのは、颯だった。
とっさのことに驚いて立ち止まると、彼はぶっきらぼうに言葉を続けた。
「連絡先!」
「えっ?何?」
「だから…連絡先だよ!」
「私の連絡先?…を聞いてるの?」
アルコールを飲み慣れていないせいか、颯は赤く上気した顔で頷く。
「あのさ、颯くん。私、あなたより12歳年上なんだよね」
「それが何?」
「いや、連絡先聞いてどうするの?」
「…いいなと思ったから、また会いたいんだけど」
― これって、酔っぱらった勢い?会話も盛り上がらなかったのに…。
「ごめんね。私たち年もそうだけど、住む場所も離れてるし。連絡を取っても、そんなに会えないと思うよ」
「は?年とか、俺は全然気にしてないんだけど」
「私は気にするから!ごめんね」
ピシャリと連絡先の交換を断った私は、トイレへと逃げ込んだ。
― どう考えても12歳も下は…ない。彼って、子どもっぽいし、気が短そうだし。うん、ないない!
颯の言葉を追い出すように頭を振って、席に戻ろうとすると通路の先に彼が立っていた。
「会えないと思うとか、そんなのまだわからなくない?俺、オフの日にはこっちに出てくるし。最初からいろいろ決めつけすぎ!だから、はい!」
目の前に差し出されたスマホには、LINEのQRコードが表示されている。
けれど、私はそれを読み込まずに、仕事用の電話番号とメールアドレスが記載された会社の名刺を鞄から取り出した。
LINEよりも、こっちのほうがある程度の距離感を保てるだろう。
「それじゃあ、とりあえずこれ」
「マジで?やった、絶対に連絡するから!」
今日、初めて見る颯の笑った顔。
― そんなに喜ぶことじゃないし!…でも、ちょっとかわいいかも。
第一印象が悪すぎた分、これはズルい。
きっと、明日になって酔いがさめたら彼は連絡してこないだろう。
そう思っていたのだけれど、事態は思いもよらぬ展開となってしまうのだった…。
▶前回:年上との恋愛に疲れた33歳独身女。食事会で出会った男に意外な対応をされてしまい…
▶NEXT:11月18日 木曜更新予定
ひと回り年下のプロサッカー選手との出会いが、多佳子の運命を変えていく
他の小説のように、イライライライラする展開になっていきそう。
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