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  • 高嶺の花 Vol.1

    高嶺の花:27歳美人CAに一目惚れした男。しかし、女の意外なプライベートを見てしまい…

    兄のメンツ


    「陽太!久しぶり」

    弟の朝陽(あさひ)を中目黒のカフェで待っていると、背後から陽気な声がした。

    苦笑しながら振り返ると、朝陽がニコニコしながらやってきて、僕の向かいに座る。

    朝陽とは年子ということもあり、兄弟というよりライバルのような不思議な関係だ。小さい頃から背格好も似ているせいか、なにかと比べられてきた。

    「おー、朝陽。近所に住んでいるのに会わないもんだな、3ヶ月ぶり?」

    朝陽は、IT企業の営業職らしく、どこか洗練された雰囲気が漂っている。幼い頃は僕のほうが女の子に人気があったのに、最近はすっかり朝陽のほうがモテる。

    ― おかしい。見た目は大差ないはずなのに…。

    「朝陽、仕事は順調そうだな。アプリ、β版できたんだろ、見せてみろよ」

    今日は、朝陽が仕事の合間に開発したゲームアプリの試作版ができたということで、呼び出されたのだ。

    「そうそう。まだまだ手直しが必要だけど、プレイしてみてよ」

    互いの近況報告をしながら、僕はさりげなく朝陽を観察する。朝陽が仕事も恋愛もうまくいっているのには、何か理由があるはずだ。


    「ん?その透明なの、何?」

    コーヒーを飲むとき、朝陽が口元から透明のマウスピースを外しケースにしまった。

    「ああ、最近歯の矯正を始めてさ。前からちょっと前歯の歯並びが気になってて。いろいろ調べてたら、友達が教えてくれたんだ」

    「矯正!?ってかそのマウスピース、今日会ったときからしてた?全然気がつかなかったぞ」

    すると朝陽は、得意げにマウスピースによる矯正について教えてくれた。

    『Oh my teeth』っていうんだけど、このとおり着けていても目立たないし、矯正しながらホワイトニングもできるんだ。歯並びで人の印象ってめちゃくちゃ変わるんだなってことに、矯正を始めてから改めて実感したよ」

    「ふうん…」

    もしかして、朝陽が最近やけに自信に満ちあふれているのは、矯正の効果もあるのかもしれない。もっと詳しく聞きたかったけれど、あまり食いつくのも兄としてひっかかる。

    『Oh my teeth』という名前だけを頭に刻む。あとで検索してみようと考えながら、僕は、別の話を朝陽にふったのだった。



    ― 今さら、マナー&心理研修だなんて…。仕事の幅が広がるのはいいけどさ。

    エンジニア職にもプレゼンテーションや営業のスキルが必要だということで、今日から3ヶ月、1週間に1回外部研修として全12回の営業マナー&心理講座を受講することになっている。

    12回のうち半分は対面授業ということで、初回の今日は大手町の研修センターにやってきた。

    ― 研修っていっても、机上の空論だろ?

    そんなふうにやや斜に構えていた僕だったが、まさかそこで、「2021年最大の出会い」があるとは、思ってもいなかった。

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