「杏奈。飲み物ビールでいい?」
光輝と会うのは、1週間ぶり。今日は彼の家でお家デートだった。週7ジムのルールが守れるように調整していたら間隔があいてしまい、それもあってことさらドキドキする。
「杏奈、こっちおいでよ」
甘い声に吸い寄せられ、ソファでくつろぐ彼にもたれかかる。
「今週の土曜日、何したい?」
光輝は大抵、私の予定が空いている前提で物事を進めてくる。だからいつ誘われてもいいように、光輝が誘ってきそうな日は大抵空けていた。
でも私が光輝を追っていると思われるのは嫌なので、あくまで「誘われたから会う」というスタンスは貫いていた。
「映画観たいかも。あ、でもその日夜予定があって、21時頃まででも大丈夫?」
「いいけど、他の男に会うの?デート、その時間までっていうの多いよね」
「え?」
突然の質問に、思わず変な声が出てしまう。
「他の男?」
焦る気持ちがバレないように、彼の言葉をただ繰り返した。
「その時間から入る予定って、男と会うんじゃないの?」
― 私の気持ちを確かめるための質問?私が本命だから?でも正式に告白される前に、自分だけの女だと思われれば、その程度だって思われるかもしれない。
「まあ、ちょっとね」
今はレベルの高い女だと思わせることが大事だと判断した私は、余裕のある表情を作って見せた。
「そっか」
嫉妬なのか悲しいのか無関心なのか、光輝の感情が全く読めなかった。
― けど、無関心だったらこんな質問しないよね?
期待に気持ちが傾く。
私がこんな駆け引きをするようになったのは、大学時代に経験した辛い恋がキッカケだ。
『付き合う人は自分の鏡』
自分を全く大切にしてくれない男と付き合って、ボロボロになった私に、目を覚ませと親友がかけてくれた言葉。
それ以降、アルバイト代はジムや美容につぎこんだ。理想の男性を手に入れるために。
週7のボディメイクレッスンで自分という素材を磨きあげれば、きっとそれに見合う男性の目に留まるはず。
光輝みたいな人と付き合えたら、こんな男性に見合う女だと私の価値も証明される。
― 私の価値は、光輝と付き合えるかで決まる。
「杏奈、聞いてる?」
光輝に呼ばれて、ハッと我に返る。
「ごめん、聞いてるよ。どうしたの?」
「そろそろお風呂に行こうって。今日も一緒に入ろうよ」
光輝の指が、ジムの甲斐あってほっそりとくびれたウエストに触れる。
「…ねえ、私と付き合う?」
口が勝手に動いていた。
言い終えた後で、自分の心臓があり得ないくらい速く動いていることに気づく。観ていたYoutubeの自動再生もタイミング悪く切れ、沈黙で包まれる。
「…杏奈」
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この記事へのコメント
付き合う前に身体の関係持って、他にも男がいる軽い女と思われてるから、彼にとってはただの遊び。本命彼女になるのはかなり難しそう。