男と女の怪談~25歳以下閲覧禁止~ Vol.46

港区で話題の2億8千万のタワマンを購入した夫婦。ラウンジを利用して夫を欺き始めた女は…

男を見る目


「ああ、参加してよかった!初めてだから緊張していたけれど、茉莉先生ってほんとに優しくてかわいいから、とっても楽しかったわ」

今日の生徒は、お友達同士で申し込んでくれた亜香里さんと聡美さん。私よりも少し年上の二人組で、聡美さんは、このマンションの住人だ。

「こういうオシャレな前菜を、ぱっと作れるといいですよね。食材が手に入るショップリストつきレシピも最高!」

「亜香里さんと聡美さん、今日はありがとうございました。また、ぜひ参加してくださいね」

白金マダムたちにご満足いただけたようで、私はほっと胸をなでおろす。

「今度は、茉莉先生がさっき話していたキッシュの作り方も教えて下さい!主人のお友達が来た時、華やかになりそう」

「そうですね、生クリームとオニオンをたっぷり入れると美味しいですよ。ここにはオーブンがないから、生徒さんが4人くらいになったらうちで今度やりましょう」


私は頭の中で素早く計算した。

初回なので自宅ではなくラウンジにしたが、どうやらまともなお客さんのようだ。これならコストもかからないし、自宅でもかまわないだろう。

適当な食前酒を持ち込んで、キッシュを焼いている間にフランス語会話をちょっと教えて、試食つきで一人1万円。生徒4人、2時間ならば悪くない。

「わあ!楽しそう!でも先生のご主人はご迷惑じゃないかしら?私の夫なんて、最近テレワークでぜんぜんお友達呼べないの。まあ、経営者だからもともと自由な感じなんだけど」

聡美さんがつまらなそうに話す。

経営者ときいて、ぎくりとする。このマンションに住む、賢治さんのことが頭をよぎる。

「…聡美さんのご主人は、会社を経営なさってるんですね。どんな分野なんですか?」

不自然に聞こえなかっただろうか。でも、とにかくITじゃないということがわかればそれでいい。

「んー、なんか専門的な感じ。私にはよくわからないんですけどね」

はぐらかしているのか、それともただのんきなバカ妻なのか。インスタのDMからの申し込みだから、聡美さんのフルネームはよくわからない。

まあ、その気になってインスタをじっくり見れば、夫の素性はわかるだろう。念のためにあとで確認しておかなくては。

こんな心配をしなくてはならないのも、賢治さんが同じマンションなんかに住んでいるせいだ。

でも、夫にバレる可能性を考えれば、用心に越したことはない。

もし露見すれば、夫は私を軽蔑するだろう。妻が不倫していた過去があり、よりによってその男が同じマンションだなんてバレたら、問答無用で離婚な気がした。

私は、いっそう注意しようと固く誓ってから、紅茶を一口飲む。


「うわあ、茉莉先生のお家、想像どおりの素敵!」

2週間後。聡美さんと亜香里さん、そして彼女たちのお友達2人が、我が家のリビングに入って歓声をあげている。

結局、聡美さんのご主人は人材派遣会社の経営者で、賢治さんとはなんの関係もなかった。私はすっかり警戒心を解いていた。

実はまだ1パターンしかない渾身のテーブルセッティングだが、こだわりの照明が照らしている様子は、我ながらセンスがいい。

SNS用に5人で写真を撮ってから、私は彼女たちをダイニングに座るように促した。

「茉莉先生、私たちがお料理しているとこ、少しだけインスタライブしていいですか?茉莉先生のサロンもタグづけしたら、宣伝になるかも」

にこにこしながら、亜香里さんが提案をしてくれる。

「じゃあ、みなさんがキッシュをオーブンから出すところにしましょう。私撮りますよ」

そう言って、私は亜香里さんから、iPhone受け取って構える。

彼女たちは、え!インスタライブ!?と騒ぎながらキッチンカウンターの向こうに移動する。

「亜香里さん、もしよかったらうちのWi-Fiつなぎますね。インスタライブだったらそっちの方がいいでしょ」

親切心から設定をタップし、一時的につなごうとしたとき。

私の目が釘付けになる。

Wi-Fiは、すでに我が家の回線とつながっていた。

― え、待って、どういうこと…?マンションの共有じゃないし、うちのルーターのパスワードがわからないと、つながらないよね…?

動揺したが、なぜか咄嗟にそれを悟られてはならない気がして、無理に笑顔をつくると動画を撮影した。

「茉莉先生、ありがとう。これを見たら、私の彼も、いい奥さんになるなって思ってくれて、プロポーズしてくれたりしてくれないかなあ」

「…亜香里さんみたいに素敵な人を待たせるなんて、彼氏さん、贅沢ですね。どんな方なんですか?」

なぜだかうまく笑うことができない。

亜香里さんが、まっすぐに、挑むような目で私を見る。

「ちょっと、ダサ目の新規事業を立ち上げたんですけど、これがすごく当たる将来性抜群の分野らしくて。将来軌道に乗ったら…『今あるもの』を整理して、私を選んでくれるって約束してるんです」

私の夫は真面目な夫。

そこらへんの港区おじさんとは訳が違う。杓子定規な堅物で、浮気なんて考えたこともない。

妻が仕事でいない間に、自宅に女を引き入れるなんてそんなことをするはずがない。

私の夫は、いい夫。

ワタシハ オトコヲ ミルメガ ダレヨリモ アルノダカラ……。


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