男と女の怪談~25歳以下閲覧禁止~ Vol.46

港区で話題の2億8千万のタワマンを購入した夫婦。ラウンジを利用して夫を欺き始めた女は…

世慣れた女癖の悪い男VS真面目だけどつまらない男


「もしかして、茉莉!?」

タワーマンションの行先フロア別のエレベーターは、ちょっとした自尊心のぶつかりあいだ。

昨夜、私は意気揚々と5つあるうちの2つ目の高層階用に乗ろうとして、呼び止められた。

「…け、賢治さん?」

「うお、久しぶりだなあ、元気か?…3年?4年ぶりか。なに、もしかしてこのマンションに住んでるの!?」

あまりにも陽気に話しかけてくるから、私は思わず周囲を見回して、慌てて歩み寄った。

「そう、先月入居して…。賢治さん、もしかしてここ、買ったの?」

「そうそう、だって東京で話題のマンションだもん、一回は住んでおかないと」

相変わらずの様子を見て、一気に、4年前、20代半ばの記憶が流れ込んでくる。

彼、我妻賢治は、わたしが「逆に張る」前、23歳から26歳まで付き合っていた男だ。


「俺、38階に住んでるからさ、ご近所さんとしてよろしくね。またな~」

賢治さんは拍子抜けするほどあっさりと手を振り、最上エリア行きのエレベーターに乗り込んでいった。

間取りによっては我が家より1億円も高いフロアだ。IT企業の創業者として、どうやらいまだに順調なようだ。

― まだ、あの当時の奥さんと続いてるのかしら。まあ、顔も名前も知らないけどね…。

私は、テンションが急落したのを自覚しながら、20~29階行のボタンをカツカツと連打した。



「茉莉、そういえばフランス語教えるの、どうなった?SNSの集客ってうまくいくのか?」

プラチナ通りにあるレストランで週末恒例のブランチ中に、シンちゃんが、穏やかに微笑みながら尋ねてくる。

「レシピ付きでフランス式アぺリティフを楽しみながら、フランス語も勉強できるっていうのが、このあたりの女性にハマるみたい!

けっこう反応いいのよ。さっそく何人もDMくれて。人数集まりそうなときは、このマンションのキッチン付きパーティルームにするつもり。4人までだったらうちでもいいし。出張のリクエストもあるのよ」

ビル管理業を継いでいる彼は、介護施設運営があたりはじめ、なかなかに多忙だ。この時間は貴重な夫婦の時間なのだ。

「さすが茉莉。SNSを使って集客すると、紹介料とか取られなくて理想的だね」

「そうなの。インスタのフォロワーは3,000人いるし。一度来てくれた人が、インスタに動画とか写真あげてくれて、そこから広がるってことも意外にあるんだよ。

でも、そのぶん個別のリクエストにある程度答えなきゃだから、たまに夜もいないことあるけど、軌道に乗るまで許してね」

私はすかさず両手を合わせ、申し訳なさそうな表情をつくる。

私の父は航空会社勤務で、小学生の頃4年間パリに駐在していたので、フランス語を多少しゃべることができた。

アぺリティフで出すちょっとしたオードブルははっきり言って素人の手習いだ。大学時代、夏休みに4週間南仏に行って料理教室に通ったので、その時のテキストからそれらしいものを抜き出してくる。

インスタ映えする盛り付けのほうが、味よりもずっと重要なのだ。

だけど、それらを生かして仕事をしたいと言ったのは、なにも小銭を稼ぎたいからじゃない。

仕事という口実を作っておけば、堅物のシンちゃんにいちいち許可を取らずに、自由に出歩くことができると思ったから。

そう、彼は男ざかり、35歳の富裕層。やり方次第でいくらでも遊べるというのに、今まで会った誰よりも真面目な男だった。

そんなガチガチの彼の「理想的な妻」でいるためには、ある程度息抜きのシステムを作っておく必要がある。

「明日、さっそく新しい生徒さんたちと、このマンションのラウンジで会うの。楽しみだわ」

遊ぶための口実をつくることができた達成感でいっぱいだった私は、明日どんな生徒がくるか、なんてことは気にもとめていなかった。

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