マテリアル夫婦 Vol.7

「一体どこ!?」出産間際に夫が行方不明に…。半狂乱になった27歳妻の決意

急いで病院に連絡をすると、電話口の看護師は落ち着いた様子でこう言い放った。

『陣痛ですね。でも初産ですから、もう少し陣痛の間隔が狭まってから病院に来てください』

出産予定日よりも早く陣痛が来てしまったらしく、慌ただしく入院の支度をすることになった。

まだ耐えられる程度の痛みだったため、顔にクレ・ド・ポー ボーテのル・フォンドゥタンを塗ってすっぴん風美肌を作り込み、ヘアビューロンをあてて艶々のストレートヘアを完成させた。

この期に及んでも、出産直後に撮るであろう写真映えを気にして、美しさに固執している自分に呆れてしまう。


ラペルラのシルクパジャマをガーデンパーティに詰め込んだところで、痛みの波が襲いかかる。

― あ、だめだ、どんどん痛みが強くなっていく…。

クローゼットルームにうずくまってマサルに電話をかける。

しかし、無機質なコール音が繰り返されるだけで、彼は一向に電話に出ない。

計画無痛分娩の予定だったため、出産予定日は夫も休みを確保してくれていたが、今夜は会食をしているはずだ。

しびれを切らした私は、震える手で運転手を手配し、病院に向かった。


女優として生きてきた私は、穏やかな妊婦を上手に演じられると思っていた。

お得意のポーカーフェイスを保っている間に麻酔が効いて、女神のような微笑みを保ちながら、冷静に出産できるはずだと思い込んでいた。

しかし、現実は残酷だった。

想像を遥かに超える痛みが打ち寄せ、全身から冷や汗が吹き出し、顔が歪み、悲痛な声が漏れる。

「早く…、早く麻酔をかけてください…」

「リカさん、もうちょっと頑張ってね。今お産が何件か立て込んでいて…。満月の夜って本当に予想外の出産が多いのよ」


眉間にしわを寄せて麻酔を懇願する私を、助産師は必死になだめるが、待てど暮らせど医師が現れない。

この病院は私のように計画無痛分娩を選択する人が多いが、今夜は出産予定日前に陣痛を起こした人が何人もおり、イレギュラーな状況のようだ。

命を扱う現場の“最前線”では、有名人だからといって、特別扱いされたりすることはないのだろう。

「…痛いっ!!」

お腹を刃物で刺されるような鋭い痛みに襲われ、人目もはばからず悲鳴のような大声をあげてしまった。

陣痛の間隔がどんどん短くなり、とっくに限界を超えた痛みが無限に更新されていく恐怖に打ちひしがれる。

「もう、無理です…!助けて…!!」

泣き顔で天を仰いだ瞬間、ようやく医師が現れた。

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