女といるのが向いてない Vol.2

久々に参加した食事会で…。大手外資勤務、手に入らないものはないはずの男が不甲斐なさを感じたワケ

「泰平!久しぶりじゃん」

店内を見回すと、樹が手を振りながらそう声をかけてきた。

1か月前に飲んだばかりなのに「久しぶり」と言えるのだから、この男はすごい。僕とは予定の詰まり方が、全然違う。

すでに着席している女に軽く会釈してから、樹の横に腰を下ろした。

「初めまして!」

ビールが運ばれてきて乾杯すると、軽く自己紹介が始まった。まずは女性陣だ。それが済むと「泰平さんは何されているんですか?」と僕のほうに話題が切り替わった。  

仕事は何か、家はどこか、樹とはどんな関係か。

紋切り型のトーク展開だ。僕はうんざりしながらポツポツと返事をするが、素っ気なく答えても樹が話を膨らませてくれる。

そして、お決まりの質問が飛んできた。


「泰平さんは、彼女いないんですか?」
「どんな人が好きなんですか?」

― それ、あなた方に関係ありますか?

なんて言うのはさすがに憚られるので曖昧に微笑むと、樹がまた話を広げる。

「泰平はね、前は聖母と付き合ってたんだよ」

すると「何それ?」と彼女たちは、その話題に食いついた。

「聖母マリアちゃん。超がつく生粋のお嬢様で、いつも微笑んでるから名前の通り聖母みたいでね…」

彼は、麻里亜の話をかなり脚色しながら披露している。

「でね、こいつの中では今でもそのマリアちゃんが殿堂入りしてるの。みんなにもそういう人っている?」

― こいつ、ほんとすげーな。

樹は、仕事でもないのに場を盛り上げることに必死だ。このサービス精神は一体どこから来るのだろうか。

僕は彼女たちのことに興味がないし、どう思われようと心底どうでもいい。それより、せっかくのホタテの炒め物が冷めてしまうのが気になる。

「なあ、これかなり美味いよ。冷めちゃうよ」

樹に僕なりの助け舟を出すと、彼はトークを切り上げ、大口で料理を頬張った。

「泰平さんっ」

そのとき、向かいの女が顔を覗き込むようにして話しかけてきた。黒いTシャツに天然石のペンダントという、カジュアルな服装の女だ。

「…ん?」

「あー、泰平さんやっとこっち向いた。もう、ずっと上の空だったから」

黒Tの女は、面白そうに笑った。美人だが目が大きくて、覗き込まれると妙にソワソワさせられる。

面倒な子だなと思いながらも、僕は苦笑いをして会話に参加する努力を始める。そうして、下らない話でその場をやり過ごそうとするのだった。



会の終盤、折半で会計を済ませると、樹はすまなそうな顔で何度もお礼を言っていた。

「泰平、退屈だったろ?本当ありがとう」

「全然いいよ、気にすんな」

実際何もかも非常に美味しかったし、樹に会えて良かった。それに女を前にする彼を久々に見たが、やはりイキイキしていて、少し羨ましく思ったのだ。

「よーし行こっか。タクシーで帰っていいよ」

樹が女たちにそう声をかけ、みんなで店を出た。外に出ると、先ほどの黒Tの女がタクシーをテキパキと止めている。

「泰平さんはどっち方面?」

「あ。僕は上原だし、歩いて帰れるから大丈夫」

「えっ一緒!じゃあ、歩いて帰ろう!」

ぱあっと華やぐ女の笑顔に、僕はげんなりする。徒歩10分とは言え、こんなほぼ知らない女と帰宅するなんて面倒だと思ったのだ。

この記事へのコメント

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No Name
泰平、若干変わってるし気難しい所もありそうだけど、今の所好印象です!
四川麻婆豆腐に惹かれて行く所とか、女子にどんな人が好きか聞かれて
「あなた方に関係あります?」とか面白い。
2021/03/09 05:2976返信15件
No Name
来週、何か事件が起こるんだね。
2021/03/09 05:3031返信3件
No Name
これ季節って?
黒いTシャツ女
2021/03/09 06:0023返信1件
No Name
樹に僕なりの「助け舟」🤔🤔🤔

僕なりで誤魔化そうとしてるけど、助けて欲しいと思われてないのに助け舟はないな
2021/03/09 07:2916返信2件
No Name
チョコ好き?
とか確かに無駄な質問だ。
バレンタイン前ならまだしも。
2021/03/09 05:5912返信9件
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