小百合の返事を聞いた途端、亮太郎はキョロキョロと周囲を見回し、タクシーをつかまえ、新宿にそびえ立つタワーマンションの名前を告げたのだった。
小百合が亮太郎と出会ったのは2ヶ月ほど前。
友人の紹介で知り合い、すぐに二人で食事に行くようになった。
小百合は、これまでの生活に満足していた。やりがいのある仕事、刺激的な毎日、ちょっとした贅沢もできるくらいの収入。それらが、小百合のことを十分に満たしてくれていたから。
社交的で幅広い年齢の友人がいることもあって、ひとりでいることを寂しいと思ったことはあまりなかった。だが40歳を目前にした途端、どうしようもなく結婚したくなったのだ。
それからは、誰かれ構わず、会う人全員に「良い人がいたら紹介してほしい」ということを、それとなく伝えてきた。
そして出会ったのが、亮太郎だ。
独身で見た目も悪くなく、高収入の亮太郎は、いわゆる優良物件。
話も面白く、食の趣味も合う亮太郎のことを、小百合はすぐに気に入った。
亮太郎も、会うたびに次のデートの約束を取り付けてくるため、小百合のことを気になっているはず。
最近は、週末のデートの場合は、食事を終えると亮太郎の家に小百合が泊まるという流れが定着してきたのだから、間違いないだろう。
ただし、お互い仕事が忙しいため、週末をまるまる一緒に過ごすことはない。
恋人同士と確認し合ったことはないが、恋人同士の過ごし方と、大きく変わりはない。
小百合は、この関係も悪くないとは思っている。お互いに、40前後の大人だ。交際までの『順番』にこだわりはない。
だがやはり、区切りとなる一言は欲しい。
仕事だとなんでも言えるのに、恋愛ではつい臆病になってしまう。だが…
ー 今日こそは、はっきりさせよう。
到着した亮太郎の部屋で、小百合は決意を固める。
◆
「亮太郎さん、私たちの関係、そろそろはっきりさせたいなって思うんだけど…?」
亮太郎の部屋に入り、コーヒーを出された直後に小百合が切り出した。
すると、亮太郎はこれ見よがしに面倒臭そうな表情を一瞬見せてこう言ったのだ。
「ごめん、小百合さんってそういうの気にしない人かと思ってた」
広いリビングに、静寂が訪れる。
「あ、ごめん、そうだよね」
沈黙に耐えられず、なぜか小百合が謝っていた。だが焦る小百合に追い討ちをかけるように、亮太郎が言葉を続けた。
「小百合さんは、俺にはもったいないよ」
39歳の女に、あまりに無慈悲な態度をとる亮太郎。
こんなことを言われてしまったら、アラフォー女にできることといえば、潔く身を引くことだ。
煌々と輝くタワーマンションを背に、亮太郎との関係を振り返る。
ふたりの関係をはっきりさせるタイミングが、早かったのか、それとも遅かったのか。
「私、何をまちがえたの…?」
丸く浮かび上がる月に、小さな声で問いかけるのだった。
◆
小百合の“まちがい”はどこだと思いますか?
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この記事へのコメント
そもそもこの男がただのチャラ男だっただけかな。
ではないかな?
婚活してるなら、時間を無駄にするのを避ける意味でも、付き合う前にやらない方がいいと思う。
都合のいいセフレにこそ
俺にはもったいないよ って言って逃げるのだと思う!