2021.02.06
乗れるものなら、玉の輿 Vol.1溝の口に到着すると改札を出て東急ストアを通り、地上に抜けるエスカレーターを下る。周りに人が減ったのを確認するとマスクをずらし、ふーっと一息ついた。
小春の実家は、埼玉の西川口。銀行員の父と、専業主婦の母との間に生まれた一人娘だ。
裕福でもなければ貧しくもない、いわゆる”一般家庭”だと思う。
小春は、サラリーマンのくせに外食やゴルフで散財し、家のことを何もしない偉そうな父親が昔から嫌いだった。
それに、そんな父に不満を抱いていた母から、『お金に余裕がないと、心にも余裕がなくなるから。小春は、お金持ちと結婚しなさい』と言われて育った。
だから、父親のような普通のサラリーマンとは絶対に結婚しない。結婚するなら経済力のある人とする、と幼い頃から決めているのだ。
この街は、東京からそう遠くはないのに、実家と似たような雰囲気がするから安心するし、家賃も安い。
急行だと、隣の駅は二子玉川だ。
東京都世田谷区。
そのアドレスがほしくて無理をする人もいるらしい。だが、独身のくせに住む場所に見栄を張る必要はない、と小春は思っている。
全ては結婚してから手に入れればいいのだから。
お酒を飲むことが一番のストレス解消になる小春にとっては、会社からそう遠くなく安く飲める街ならば、どこでもよかった。
駅を出た小春は、線路沿いの居酒屋が並ぶ通りへと歩き出し、週2で通うお気に入りのホルモン屋へ入った。
席につくと慣れた手つきで、生ビール、たたききゅうり、やげん軟骨、上ホルモンを伝票に記入して強面の店員に真顔で差し出す。
「すみません、これお願いします」
自分で紙に記入すれば、初回にオーダーしたものは全て10円引きになる、溝の口では有名なホルモン屋。
外の席だと、ただでさえ安いメニューが半額になるから、真冬は寒さが身にこたえるが会社帰りはここで飲んでいることが多い。
小春は、ビールが来るまでの間、Instagramでストーリーを流し見する。
ふと、ある男性が気になりスワイプする手を止めた。高校の同級生で美容師をしている祐馬(ゆうま)の投稿に映る、背の高い男性。
彼を囲むように、スタイリストとアシスタントたちが仲良く1枚の画像に収まっている。まるでVIP扱いだ。
ーこの人見たことあるな。誰だっけ?
気になってすぐに、祐馬にDMを送る。
『小春:この人とどういう知り合い?』
『祐馬:最近可愛がってもらってる金持ちw』
祐馬は、高校時代お互い帰宅部で、服と音楽の趣味が合ったから、気づくといつも一緒にいた兄妹みたいな関係である。
『小春:へー』
『祐馬:嘘。先輩のお客さんだよ。朝比奈 恭介さん。紹介しよっか?』
小春から言い出さなくても、すぐに意図を汲み取ってくれるのは、さすがだ。
『小春:いや、大丈夫。 自分でやる』
『祐馬:りょうかい♡』
ー男のくせにハート使う?キモ!
そう、思いながらも心の中では浮かれていた。”朝比奈 恭介”と検索バーに打ち込む。
ーやっぱりそうだ…
経営者だけをリレー式でインタビューしている記事に取り上げられていた気がしていたが、記憶は正しかった。
Web制作会社を経営している32歳。最近は、エンジニア派遣の会社を大きくして売却したと書いてある。
「イケメン社長がモデルと密会!」 という週刊誌の過去記事も出てきた。
“プライベートは、そうですね。そろそろ落ち着きたいかな 笑”
ーふぅん。
小春は、インタビュー記事の最後の一文を見逃さなかった。
そしてその瞬間、あることをひらめいたのだ。
ーこの恭介という男を、ターゲットにする!
そして、”お金持ちと結婚する”という母親が叶えられなかった夢を、自分がかなえる、と改めて心に誓った。
そのためなら、多少の犠牲もいとわない。
「すみません、カットレモンと豚タンとカシラもください。あとビールも」
この安いお店にも、あと何回来られるだろうか。そう思うと、いつものホルモンも一層美味しく感じられる。
小春は、恭介に関するあらゆる情報を隈なくチェックし始めた。
外食やゴルフで散財したとはいえ、貧しくもなく大学まで出してもらったんだから。家のことを顧みず威張ってたのは良くないけどね。
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