惚れた女に恋人がいた…!?恋に破れ絶望に打ちひしがれる男が、一発逆転できた理由
寺田の背中を勢いよく叩いた人物。それは、営業本部長の八木正友。
「おいおい、どうしたんだよ。シケた顔してるな」
そう言って笑う八木は、いつもエネルギッシュだ。たしか年齢は47歳のはず。
だが、いつもパワフルで若々しいそのルックスは、とてもアラフィフには見えない。
「八木さん…。ビックリさせないでくださいよ」
抜群に仕事ができ、人望も厚く、その上ルックスまで兼ね備えた八木は寺田にとっても憧れの男だ。
しかし今は、彼の顔をまともに見ることができない。
なぜなら寺田は大きな案件を落としてしまったばかり。だからビジネスパーソンとして完璧な彼に、とてつもない劣等感を抱いているということも、もちろんある。
だがそれとは別に、もうひとつ顔を合わせたくない理由があった。
それは数日前のこと。八木がとある女性と、いい雰囲気で歩いているところを見かけてしまったばかりなのだ。
その女性こそ寺田が密かに想いを寄せている、ひとつ年上の先輩・木村真由佳。実は彼女のことをこれまでに何度も誘っている。
だが、その都度やんわりと断られていた。
ー木村さんって、八木さんと付き合ってるのか?
社会人としても、男としても、彼に全て持っていかれるのかと思い途方に暮れていたのだった。
◆
「おい寺田。どうせボーっとしているなら、ちょっと俺に付き合えよ」
八木は何かを察したように飲みに誘ってきた。連れて行かれたのは、オフィス近くのバー。
「そのウイスキーを。15年の方ね」
慣れた様子でバーテンダーに注文する彼の姿は、まるで映画のワンシーンのようだ。
「それ、よく飲むんですか?」
おずおずと尋ねると、彼は嬉しそうに微笑んだ。
「…お前ももう30代だろ。そろそろ酒も、量より質だ」
そのサマになる所作に、ますます劣等感を掻き立てられる。
―どうすれば、この人みたいな大人になれるんだろう…?
しかし乾杯してもなお、2人の間には重い空気が流れている。気はのらないが、部下である自分が無言でいるわけにもいかない。
沈黙を打ち破るため、寺田は口を開いた。
「あの!八木さんって普段何かやってるんですか?いつもパリっとしてて、かっこよくて…」
あまりに不恰好な質問をしたことに気がついて、思わず顔が赤くなる。質問をむけられた八木も、驚いたように照れ笑いを浮かべた。
「ん?別に特別なことは何もしてないけど。…あ、でもひとつだけ続けてることがあるよ」
そして、鞄の中からある物を取り出したのだ。