惚れた女に恋人がいた…!?恋に破れ絶望に打ちひしがれる男が、一発逆転できた理由
彼が取り出したのは、ゴールドとブラックの袋だった。
「それ、何ですか?」
「『アクティブ8AMINO2000』っていうアミノサプリメント。俺も友人から勧められたんだけどさ。
40超えると、経験や知識も増えて仕事はできるようになるけど、その分、集中力や体力も落ちてくるからな。社会人の基本は体だろ。そこを補うために、このサプリメントを飲んでるんだ」
八木は、グラスに口をつけてウイスキーを一口飲んだあと、付け加えた。
「二日酔いにもなりにくいぞ」
彼によると、『アクティブ8AMINO2000』には8種類もの高品質のアミノ酸がバランスよく配合されているらしい。
だから美肌効果や疲労回復、精力・免疫力アップ、アルコールなどによる肝機能の働きをサポートしてくれるなど、様々な効果が期待できる万能なアミノ酸サプリなのだという。
「このサプリが、八木さんの魅力の秘訣…?」
寺田は怪訝な顔で彼を見つめる。
確かに八木は「枯れたおじさん」などという言葉からは、真逆の男。同世代の男と比べてもエネルギッシュで若々しく、女性社員からもダントツの人気を誇る、憧れの大人の男だ。
「寺田。そろそろお前も、年相応のバランスが大事になってくるぞ」
サプリメントのパッケージを見ながら、八木はそう言う。
―バランス、か…。
じっと見つめる寺田をあしらうように、彼はサプリを2錠取り出しチェイサーで流し込んだ。『ごくり』という喉の音が、耳に響く。
その瞬間、寺田はハッとした。
八木の重みのある一言に比べて、自分はどうだ。
先日のプレゼンでも、一方的に自社のいいところをまくしたて、相手に考える余地も与えていなかった。
中規模の案件であれば、そのやり方で強引に進められたのかもしれない。だが今回のように規模が大きくなるとそうもいかないのだ。
猪突猛進に、武器を振り回すだけ。振り返れば、これまでの自分はずっとそうだった。
がむしゃらに働き、ワークライフバランスなど気にしたこともない。20代はそれで通用したが、自身のポテンシャルだけに頼って突進していくだけのスタイルにも限界がきているのではないか。
弱点に向き合い、自分なりのバランスを確立する。
現状打破の糸口を掴みかけたようだ。完全に自信を喪失していた先ほどまでとは一転し、自分の思考が整理されていくのが分かる。
そんな寺田を見て八木は、満足そうに微笑んだ。
「余裕がなくなると、ひとつのことしかできなくなる。世界が狭い営業にクライアントはついてこないぞ」
そしてグラスを傾けた彼は、小さな声でつぶやく。
「頑張れよ。…分かるんだ。俺も、そうだったからさ」
◆
その日以来、寺田はイチから生活を見直すことにした。
まずは、彼と同じように『アクティブ8AMINO2000』を飲むことを習慣づけたのだ。
そして、仕事の面では、自分の主張を押し通すことをやめた。ひと呼吸おいて、クライアントのニーズを詳細に分析する。それから相手が求めるものに徹底して回答することにした。
結果は、想像以上のものだった。
目の前のエクセルとメールに向き合うことでほぼ埋まっていた時間が、世間の情報を取得することに切り替わる。
目線が、スマホ画面から街の風景へと移っていく。自然と、これまで無頓着であった服装も整っていく。健全なコンディションが生むアウトプットが、正のスパイラルを生みだす…。
そんな生活を送るようになって、数ヶ月がたったある日。
寺田は新しく参加することになったプロジェクトのミーティングのため、ある人物と一緒に会議室に向かっていた。
資料をめくりながら足早に歩く、その人は…。
まだ密かに想い続けている、木村真由佳だ。