2020.11.04
いつだって、どこだって Vol.1◆
ー3年前の10月ー
「えーっ!?英莉、あの代理店マンともう別れたの?」
「うん。初めはかっこよく見えたんだけど。なんか盛り上がらなくて…3ヵ月くらいかな、付き合ってたの」
いつものように、同期であり遊び仲間の桃華と会社帰り『the ringo marunochi』で尽きない恋バナで盛り上がる。
夏が終わり、爽やかな気候の秋が始まる頃。25歳の英莉はマンネリ気味の日常を打破すべく、刺激を求めていた。
仕事は、毎日同じようなことの繰り返し、食事会やデートなんかも一通り経験してしまった東京のOL生活。
「毎日普通に楽しいけどさ、なんか物足りないんだよね。もっとこう、ワクワクすることないかなぁ」
ついこの前ゆるふわパーマをかけたばかりの髪を耳にかけながら英莉がそう呟くと、桃華も同意するように頷き、それから“良いこと思いついた”と言わんばかりに目を輝かせた。
「ねえ、英莉。来月“特連”取って、3泊4日くらいで海外にでも行かない?」
ワイングラスを持つ彼女の細くて長い指にはめられた、ヴァン クリーフ&アーペルのデザインリングが照明の下でキラリと光る。
英莉が働く大手損害保険会社は、有休とは別に年間10日必ず取らなければいけない長期休暇がある。土日とくっつけて連休を作り海外に行く社員も多い。
「それ、いいね!どこがいいかな?」
「バンコクなんてどう?」
「バンコク?良いけど、なんでまた急に」
桃華はリゾート派だったから、てっきり“ハワイ”と言ってくるのかと思いきや、意表をついて“バンコク”を提案してきたので驚いた。
「私ね、最近狙ってる人がいるんだけど、総合商社の人で今バンコクに駐在してるの」
桃華は、将来駐在妻になって海外に住みたいとずっと言っていて、いつも海外駐在の可能性がある人を狙っている。少し前まで付き合っていた彼氏も商社マンだった。
「そういうことね!」
大学時代の先輩だというその人に、市内を案内してもらったり美味しいお店に連れて行ってもらおうという彼女の計画は、確かに楽しそうだ。
「先輩には、現地の独身駐在員も連れてくるように頼んでおくからさ。旅行をエンジョイしつつ、“あわよくば恋”なんてよくない?」
DAY1
こうして、バンコク旅行の計画はとんとん拍子に進み、丁度1ヵ月後の11月上旬には、英莉と桃華はスワンナプーム国際空港に降り立っていた。
午後2時、気温28度。
雲1つ無いカラッとした晴天が心地良い。東南アジア独特の香りが鼻腔をくすぐり、「ああ海外に来たんだ」と実感する。
初めて上陸した異国の地で、旅の始まりと新たな出会いを予感し、英莉の心は密かに高揚していた。
タクシーを捕まえ、バンコクで1番有名とも言われている五つ星ホテル『シャングリ・ラ ホテル バンコク』にチェックインする。早速スーツケースの荷物を解いていると、隣で桃華が嬉しそうな声を上げた。
「あっ、先輩から連絡来た!友達連れて、18時半にホテルに迎えにいくね、だって」
「楽しみ~!」
洋服をクローゼットにしまいながら、夜は何を着よう、なんて考えるだけでワクワクしてしまう英莉なのだった。
◆
「桃華ちゃん!久しぶり」
ロビーラウンジで男性陣の到着を待っていると、2人の背の高い男性がやってきた。
「わぁ~先輩!わざわざホテルまでありがとうございます♡こちら、同期の英莉ちゃん」
体格が良く小麦色に日焼けした、スポーツマンっぽい方の男性が、桃華の先輩なのだろう。桃華が好むのはいつも分かり易く「体育会系男子」だから。
「初めまして」の挨拶もそこそこに、英莉は、もう1人の「イツキ」という男性にくぎ付けになってしまったのである。
この記事で紹介したお店
ザ リンゴ マルノウチ
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