SPECIAL TALK Vol.71

~とどまることは、衰退を意味する。尺八を武器に世界を目指したい~

金丸恭文氏 フューチャー株式会社 代表取締役会長兼社長

大阪府生まれ、鹿児島県育ち。神戸大学工学部卒業。1989年起業、代表取締役就任。

金丸:「絶やさないために、これまでどおりのことをしよう」ではダメなんですよね。旧来のしきたりに縛られて裾野を拡げることを考えない業界は、いずれ滅びます。

田辺:私は和楽器ブームがもう一度来てほしいんですよ。そのブームのさなかに自分がいることができたら最高です。これまで邦楽や和楽器が盛り上がった時代って、業界のなかだけでなく、世間的に知られたスターのような方が必ずいますよね。そういう存在を生むためには、邦楽人口を増やさなきゃいけないし、フックとなる機会をどんどん作らないといけません。

金丸:国内でファンを増やすと同時に、世界に目を向けるのはどうでしょう。いま海外に尺八の愛好家はどれくらいいるのですか?

田辺:それが意外にいるんです。とくに中国ではすごく流行っています。だから私も世界に出たいんですけどね。

金丸:世界の人口はこれから90億人まで増えるといわれています。日本の人口の大半を尺八ファンにしようと思うと至難の業ですが、世界中の1%がファンになるだけで、9,000万人になる。インターネットがこれだけ普及しているからこそ、やれることはいろいろあるはずです。

田辺:新型コロナウイルスの影響で、私もライブ配信をしてみましたが、インターネットの可能性をとても感じました。とくにリアルタイムで視聴者からコメントが来るというのは、新鮮な体験でしたね。

金丸:生ライブだと、お客様が演奏をどう思っているのかわかりませんからね。

田辺:生ライブには何にも代えがたいライブならではの迫力がありますが、コロナが沈静化したあとも、生ライブだけでなくオンラインも続けたほうがいいと思っています。ファンを増やすためにも、私たちの世代からネットを活用した新しい活動を提案していきたいです。

金丸:田辺さんをはじめ、ネットがあるのが当たり前という環境で育ってきた若い人たちに期待していますよ。

田辺:ただ、尺八や箏を愛好してくださる方ほど、従来の伝統的なかたちを好む方が多いんですよ。私も実際に「そんなチャラチャラしたことをやって」と言われたことがあります。

金丸:伝統芸能ゆえのジレンマですね。

田辺:愛好している人たちだからこそ、もっと応援してほしいという気持ちがあるのですが、やりすぎると気持ちが離れてしまうこともあり。自分なりに上手にアプローチできたらいいなとは思っています。

金丸:最後に、日々挑戦を続けている田辺さんから、読者にアドバイスをいただけますか?

田辺:そんな大きなことは言えませんが、やはり自分が気になったら、とにかく「やってみる」ということでしょうか。あまり重く考えず、まずはやってみることで、何かが変わるかもしれません。あとは、めげないことも大事ですね。壁にぶつかったり、何をやってもダメで逃げ出したくなったりするけど、それでもめげずにやり続ける。次に何か見えるんじゃないかと思って、やり続ける強さを持ち続けたいです。

金丸:私も同じです。未来が不確実な今こそ、やり続ける粘り強さが大事だと思います。人は調子がいいときはおごってしまうし、どん底だとネガティブになりがちですよね。でもこれは最も危険なことで、おごるとあとは転がり落ちるだけだし、ネガティブだといつまで経っても浮上のチャンスが来ません。私の経験からいえば、ピークのときこそ心の中に少しの健全な臆病さが必要、逆に最悪のときこそ開き直るくらいの勇気が必要だと思います。

田辺:なるほど。私なんて調子いいときは、ちゃんと調子に乗っちゃいますからね(笑)。でも思い返すと、私もこれまで多くの人に助けていただきました。人が人を結びつけてくれて、その繰り返しで今まで奏者として生きてこられたと思っています。そのことに感謝を忘れず進化し続けたいですね。めげずに「やってみる」を積み重ねることが明日、明後日、そして1年後を大きく変えるはずですから。

金丸:田辺さんたちが、邦楽や尺八のポテンシャルをさらに引き出して、世界中の人に届けてくれる未来がとても楽しみです。今日は本当にありがとうございました。

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