必要ですか? Vol.2

美容整形で顔を変えた女。辛い過去と決別するために「婚約者に見せる」と決めた物とは

驚く千恵美に向かって、雅矢は続けた。

「写真や物は“過去そのもの”ではありません。物は物ですよ。ありがとうと感謝しながら処分した方が良いこともありますが、僕は、目をつぶったままゴミ袋に投げ捨てるのも、悪いことではないと思っています。ただし…」

不安そうに戸惑っている千恵美に向かい、雅矢は柔らかな微笑みを見せた。

「あなたがずっと抱えている、その気持ち。自分を責める気持ちは、あなたの明日に必要ですか?」

千恵美はハッとしたように顔を上げると、雅矢の顔をじっと見つめた。

「千恵美さん。あなたは美容整形し、過去と決別した。人生で一番の決心はとっくに終わっています。もうそれ以上、自分を追い詰める必要はありませんよ。あとはただ、物を捨てるだけ。それは“過去”ではなく“部屋を占領するガラクタ”ですから、処分は簡単なことですよ」

千恵美は、ようやくほっとしたような笑顔を見せると、本音を吐露した。

「美容整形する前の過去を開かずの部屋に押し込んだのは、どこかに罪悪感があったんです。でも、結婚することになったから、どうしてもそのモヤモヤから解放されたくて」

「結婚するためのお片づけなんて、幸せなだけですよ。羨ましいくらいです。ね。美桜さん」

突然話を振られた美桜は、勢いよく「はい!私は逆に結婚しそびれたのが理由でお片づけしたので、めちゃくちゃ羨ましいです!」と言って、千恵美と雅矢の笑いを誘った。


案内された開かずの部屋のものは、すべて段ボール箱に詰め込まれていた。

「箱の1つは、クリニックや手術の経緯に関する資料ですが…。病院選びはかなり慎重だったので、量も多くて。ただ、もうこれ以上手術はしないと決めているので、これは箱ごと捨てます」

千恵美は箱をそっと押し出し、雅矢はそれを受け取りすぐに部屋から出した。千恵美はほっとしたような顔をすると、こう続けた。

「私、整形した過去を背負ってないといけないと思っていたんです。生まれながらの顔じゃない。自分でお金を稼いで、手術を受けて、手に入れた顔だってことに、無理やり誇りを持とうとしていました。

でもそれと同時に、“天然美人ではない”ことを忘れてはいけない。調子に乗るなって…自分に押し付けていたんですよね。こうして処分するにあたって、今、全部わかりました」

雅矢は柔らかい口調で言った。

「生き様によって、誰でも顔立ちはどんどん変わるものです。加齢もあるし、女性ならメイクもする。いちいち昔の顔にとらわれていては大変だと思うので、捨てるのに良い機会だと思います」

その言葉を聞いた千恵美は、勇気付けられたように写真の段ボール箱に手をかける。

「矛盾するようですけど、私…。生まれてから整形する25歳までの写真、すべてを捨てたいとも思えないんです。それも、寂しい気がして。昔の顔は見たくないのも本音だし、でも楽しい思い出まで失いたくないという気持ちもあって」

うつむいた千恵美に、思わず声をかけたのは美桜だ。

この記事へのコメント

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No Name
散らかった部屋は、人を不幸にするか…

胸に刺さりました。
整理整頓が苦手なんだよなー。
決して汚部屋ではないけど。
2020/07/27 09:0250返信2件
No Name
独りで片付けられない時、こんなアドバイザーがいてくれたらいいかも。
お片付けってたいていはヨシっやるぞ!て感じで気合い入れてるはず笑(きれい好きや几帳面な人は別として)
心機一転片付けても月日経つとアップデートしなきゃだし。
私も片付けたい物結構あるわ➰😌
2020/07/27 07:5839
田舎者
雅矢さんの過去!気になるなあ。
来週が楽しみ。
2020/07/27 07:1032
No Name
これ読むたびに部屋のいらないもの捨てなきゃという気持ちになるのに、明日になったら忘れてるダメな自分…。
2020/07/27 10:1718返信1件
No Name
片付けって作業自体の煩わしいさもあるけど過去と向き合う作業だから、無意識に避けてしまうのかな。
片付けが苦にならない人は過去を肯定している幸せな人なのかも。
2020/07/27 09:509返信1件
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