世田谷に40年。名優・草刈正雄に街の魅力を教えてもらったら、なんだか世田谷が好きになった!


かつては天才の名をほしいままにしたCMディレクター・杉山登志氏に抜擢されて華々しくデビューし、その後、俳優としての仕事が次々と舞い込むようになったものの、そのうち与えられる台詞が減っていった。

一度は主役を張ったにもかかわらず、出番も少なくなっていった。

「でもね、台詞が一言しかない通りすがりの役しかもらえなくなったとしてもね、役者をやめるつもりはなかったんです。しがみついてやるんだと思っていました。もともと生活のために始めた仕事。僕にはこれしかできないんですよ」

それから草刈さんは「『真田丸』や『なつぞら』にはいい台詞がたくさんあったよねえ。幸せだったなあ」と懐かしむように言葉を継いだが、聞いて思った。

恐らくそれは彼が氷河期を乗り越えてきたから、辛酸をなめたことがあるからこその発言ではないか。また、だからこそ草刈正雄という人は自分に与えられる役や台詞を慈しめるのかもしれない、と。

今年は芸能生活50周年の節目にあたる。今、改めて何を思うのか。率直に尋ねてみると、草刈さんはしばらく沈黙し、こう言った。

「感謝しかありませんよね。結局のところ人なんです。人は人によって支えられている。この歳になってバラエティ番組に誘ってもらえるのだって、人との繋がりがあったから。

こつこつやっていると良いことがあるんですよ。なぜ、続けられたかと言えば、やっぱり芝居が好きなんでしょう。だからこれからもしがみついていくのだろうと思います」

そうして、草刈さんは手元のジョッキに残っていたビールをぐいっと飲みほし、「いやあ、ありがとう」と言い残して去っていった。

ベテランにして大スターは最初から最後まで控えめで潔かった。その朗らかさは世田谷の空気と似ている。彼がこの街を離れられないと言った理由がわかった気がして、しばしその余韻に浸らずにはいられなかった。


■プロフィール
草刈正雄 1952年、福岡県に生まれる。'70年に資生堂初の男性向け化粧品「MG5」のCMに起用されてブレイクし、'74年に映画『卑弥呼』で映画デビューを果たす。2016年のNHK大河ドラマ『真田丸』など、数多くの出演作品を持つ。NHK BSプレミアム『美の壺』に出演中。3月15日(日)夜10時より主演ドラマ「連続ドラマW オペレーションZ~日本破滅、待ったなし」(WOWWOWプライム)が放映予定。

■衣装
ジャケット¥159,000〈ボリオリ/ボリオリ(三崎商事)TEL:03-5775-1211〉

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