世田谷に40年。名優・草刈正雄に街の魅力を教えてもらったら、なんだか世田谷が好きになった!

大河ドラマと朝ドラに出演して反響を呼び、還暦を過ぎてファースト写真集を上梓。

さらにはバラエティ番組で存在感を発揮するなど、快進撃を続ける俳優の草刈正雄さんは、2020年に芸能生活50周年、そして、世田谷在住40年目を迎える。

その節目にあたって草刈さんが行きつけにしているという千歳烏山の鮨屋で世田谷での過ごし方、再ブレイクを果たして胸に湧く想いを語ってもらった。


“人生のほとんどを世田谷で。もう、離れられないねぇ”

その日、千歳烏山の『栄寿し 総本店』でスタンバイするスタッフの間には緊張感が漂っていた。何しろこれからやってくるのは芸歴50年のベテランにして、国民的大スターである草刈正雄さんだ。

しかし、その登場はあまりに控えめなものだった。

正面の自動ドアからぬっと現れた草刈さんは、聞こえるか聞こえないかという声で「どうも」と軽く会釈し、カウンターの一番隅っこに静かに腰を下ろした。とっつきにくい印象はない。ただひたすらに、淡々としていた。

「僕は安上がりな人間でね、この店に来るときは決まって一人前の刺身をつまみにビールを飲んで、足りなければ最後にイカかタコを握ってもらうんです」と草刈さんは言った。

そして、誰に聞かせるともなく「その分、うちの家族はめいっぱい食べますがね」と続け、目を細めてふぉっふぉっと笑った。実に素朴でやさしい笑顔だった。

草刈さんは今年で68歳。世田谷に暮らしてちょうど40年になるという。その前は恵比寿に住んでいたせいか、引っ越し直後は喧騒が恋しくなって都心に足を向けたこともあったらしい。

だがいつしか世田谷の穏やかな環境が心地よくなり、時が経ったようだ。

「もう離れられませんねえ。そうかと言って、特に街で何をするわけでもないのですが。僕は仕事がなければ、家でぼーっとするばかりだから」。

そう言って、草刈さんは例の調子でまた笑った。


モデル出身でスタイルがいいので、思わず「鮨屋のカウンターもいいけど、カフェでコーヒーを飲む姿も絵になりそうですね」と話を振ると、彼は思い出したように「そうだ。家の近所のスターバックスには一人で出掛けますね。4〜5時間いたこともあったなあ」と頭を掻いた。

「台詞を覚えるためです。3〜4年前に知り合いが勧めてくれましてね。最初はまさかと思いましたよ。だって騒がしいじゃないですか。

若い人が話していたり、パソコンしたりしていて。でもね、やってみたらなかなかよかったんです。それからすっかりハマってしまいました」

今から3〜4年前と言えば、草刈さんがNHK大河ドラマ『真田丸』に出演して圧倒的な存在感を見せつけ、世間を賑わせていた頃だ。

大河の翌年には64歳にしてファースト写真集を発売し、タレント本ランキングでは今をときめくアイドルを押さえて1位に。5歳の少女に「正雄が好き」と言われるほどの幅広い支持を獲得した。

そして昨年はNHK連続テレビ小説『なつぞら』の名演で〝泰樹おんじロス〞を呼んだ。この状況について草刈さんは言った。

「僕の人生にこんな瞬間が訪れるなんて思いもしなかった」。

その目はどこか遠くを見ていた。

「苦労してきた時間の方が長いんですよ。若い頃はよく〝二枚目俳優〞ってレッテルを貼られてねえ。

でも、当時は『自分の本質をしっかり見てほしい』なんて突っ張っていたので、いつしかあちこちでギクシャクするようになってしまって……。

コンプレックスもあったんです。僕は劇団で演技の勉強をしたわけじゃない。ぽっと出のモデルでしたから」

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