レス歴1年の夫婦。結婚3年目、妻の誘いを断った夫の本音とは

キスやハグはするから大丈夫だと思ってました


結婚生活が進むにつれ、妻との夫婦生活が少しずつ減り、次第になくなってしまったことについて、浩史ももちろん気づいていた。

しかし夫婦仲はよく、キスやハグなどのスキンシップはあったから、大して気にもしていなかったのだ。

「正直、驚きました。急にどうしたんだろう、と。妻がそんなことを気にしていたとは思いもしなかったから。

そりゃあ人並みにはそういう欲もあるでしょうが、そんなに求めるタイプではないと思っていたし、彼女の方も気にしていないものだとばかり…誰かに何かを言われたとか、何かあったんでしょうか?」

浩史としては、妻が急にレス問題を表沙汰にし、大げさに取り上げてきたことが驚きだったという。

「どうしたんだよ、急に」
「そんなの、いつでもできるよ」

そんな言葉でどうにかその場をやり過ごした。

いや、別に嘘を言ったわけではない。浩史は本心からそう考えていたのだ。「しようと思えばいつでもできる」と。

ただ、今はそういう気分になれないというだけで…。

「先に言った通り、僕は里香のことが好きだし、愛しているし、尊敬もしている。彼女を抱きたくないわけじゃありません。でも…私たちはレスだ、と断言されてしまってから、いざ改めて彼女と向き合おうとすると、これがどうしても難しいんです。

無言のプッレッシャーを感じるというか、僕も家で妻の機嫌を伺うようになってしまって。僕の職場での苦悩を話してしまえばいいのかもしれませんが、それもなんだか今更だと言い訳のようだし…」

職場で過度なストレスを受けながらも、これまでは家で妻と会話をするのが楽しみだったはずの浩史。

しかし何も知らない妻は、ただただイライラを募らせているように見える。

「本当に、難しいですね。そんなに複雑な問題ではないはずなのに、一度こんがらがってしまうとどうにも解けない。男として、夫として、妻を満足させなければと思えば思うほど無理なんですよ。情けない話ですが…」

浩史は困り果てた表情で、最後にこう語った。

「最近、妻の夜の外出が増えました。以前はお互い多忙ながらも週末の予定は合わせようとしてくれていましたが、それもなくなりましたね。でもそれもこれも、全ては僕のせいだから…何もいう資格はないかな、と諦めています」

空っぽになったワイングラスを見つめる浩史の横顔は、なんとも言えず切ない。

レス問題でぎくしゃくする前までは、夫婦仲良くしていたはずの高橋家。

ところが妻の里香が下世話な中吊り広告に感化され、第三者が考えた「レスの定義」に焦り、夫に詰め寄ったことをきっかけにして、二人は自らを「レス夫婦」なのだと問題視するようになってしまった。

波風を立てなければ、いつかまた自然に復活することがあったかもしれない。

しかしながら、覆水盆に返らず。一旦離れてしまった夫婦仲は元に戻らない。体だけではなく、心までも、離れていってしまったようだ。


▶NEXT:12月7日 土曜更新予定
結婚3年目、ついにやってきた地方転勤の内示…

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