「どうせ私なんて…」
そんな言葉が口癖の、美優(みゆ)28歳。
恋愛がうまくいかずネガティブ志向まっしぐらな美優の前に現れたのは、「俺ってツイてるんだよね」が口癖の、超ポジティブ男だった。
相反する二人が、恋に落ちたら…?
うまくいくのか、それともいかないのか。
凸凹な二人の恋の行く末とは。
「ちょっと、嘘でしょ…。」
スマホを持つ美優の手は、ワナワナと震えた。週末のデートに備えて奮発したネイルストーンが、爪の上でむなしく光る。
週末にデートをする予定だった相手には、面と向かって告白されたわけではない。しかし、すでに“恋人同士”も同然だと思っていた。
しかし向こうにとっては、違ったようだ。友人の友人のSNSに、他の女と堂々2ショットで親密そうにしている写真を載せられているのだから。
「またこんな男にひっかかっちゃうなんて、私のバカバカバカバカ…!」
美優は、就職したい企業ランキングでも上位に入る旅行会社でプランナーとして働いている。元々旅行好きだった彼女にとっては、まさに天職だ。
それに、超美人とは言わないが、容姿にだって恵まれていると思っている。自分から行動せずとも男はいくらでも寄ってきたし、はた目からは充実した人生を送っているように見えるだろう。
しかし、ここ最近の美優は信じられないほどツイていない。
「また、セカンドだったの?…美優ってば、男見る目なさすぎでしょ。」
親友の千尋が、呆れたように美優をたしなめる。最近恋愛関係になる男性に、ことごとく“セカンド”扱いされていることを改めて指摘され、美優は頭を抱えた。
「今回こそ懲りたわ…。もう言い寄ってくる男なんてこりごり!」
「まあ、今日は気を取り直して飲みに行こうよ。営業の同期に、イイ男連れてきてって頼んどいたから!」
大手メーカーに勤める千尋は、いつもこうして美優を励ましてくれる。
正直、大勢で飲みたい気分ではなかったが、千尋のちょっと強引な優しさに引っ張られ、美優は飲み会に向かったのだった。
「美優ちゃん、横イイ?」
その会で途中から美優の横に陣取り、積極的に話しかけてきたのは、浩輝(こうき)と呼ばれている男性だ。
飲み会は、千尋がベストメンバーを揃えてくれたようで、思いのほか楽しいものだった。特に、浩輝は明るい性格のようで、身振りも声も大きい彼が、場を盛り上げていた。
「俺さ、最近ツイてるんだよ。今日だって朝はコンビニくじでコーヒーが当たったし、昼は頼んでないのに大盛りになってたし、夜はこんなに楽しいし!ハハハ!」
―ポ…ポジティブだわ…。
浩輝の底抜けの明るさに、若干引いていた美優だったが、つられて笑っているうちに、不思議と心のモヤが晴れたような気がしていた。
そして、ネガティブな美優とポジティブな浩輝という相反する二人が、なぜかデートをすることになったのだった。