港区モード Vol.10

東京男の品格:29歳目前。未婚でいることを不安に思う女を癒した、男の行動とは

「知り合いからクルージングに誘われたから、一緒にどう?すごく豪華なクルーザーらしいよ」

そんなことを言われてしまえば、今の私に「断る」という選択肢はなかった。

当日クルーザーに案内された時は、その豪華さにテンションが一気に高まったことは言うまでもない。


男性は5人。私たちのような女の子を集める若い男が1人と、それ以外の4人は全員経営者らしかった。

男性たちは30代後半から40代といったところ。皆落ち着いた大人の色気を持っており、上質なものをさらりと身に着けているような男ばかり。

クルーザーに乗ると、出発する前からシャンパンを開けて、皆で乾杯した。

加速するクルーザー。船体の前方が大きく反り上がるようにして海の上を進む。斜めに傾くテーブルに慌てて、私はシャンパングラスを持ちあげた。

数億円はするというクルーザーの上で全身に感じる心地良い風と、飲んでも飲んでも注ぎ足されるシャンパン。

「なんて贅沢なの…」

思わずそんな独り言がでるほどに、非日常的な時間。

でも…

―もうすぐ29歳。もう、いい年なんだから…。

いつの頃からか、こういう贅沢な時間を過ごすほどに、「早く落ち着かなきゃ」「地に足つけた生活しなきゃ」と、そんな言葉ばかりを心の中で繰り返すようになっていた。

会社では後輩がどんどん増えて、友人の中には母親になる子も現れはじめた。

それなのに私は、夜中までシャンパンを飲んで、数人の男性とデートを繰り返す。今の毎日が嫌いなわけじゃないけれど、「これでいいのかな」っていう不安は常に付きまとう。


クルーザーはあっという間にレインボーブリッジの下へと到着し、しばらくこの辺りで停まることになった。

「スイカ切ってきました!」

一番若い男が大きな声で言うと、私を含めた女たちが「きゃ~♡」という歓声を上げる。

ひとつだけ大きく切られたスイカを、若い男が一人の男性へと手渡した。

黒いシャツとサングラス。ここにいる男性の中で一番カジュアルな服装なのに、一番品良く見える男。

彼はスイカをもらうと嬉しそうに笑って、一人離れた場所に座った。


そして本当に美味しそうにスイカを食べ始めた。まるで、夏休みを身体中で満喫する子どものように。その姿を見ていると、自然と「ワンパク」という言葉が浮かぶ。

でも私は見逃さなかった。彼の腕で存在感を放つ時計の存在を。

港区で食事会を繰り返し、港区の男たちと付き合う中で自然と覚えていった、高級時計の知識。知識といっても細かいことはわからないけれど、ある程度のブランドならわかる。


彼が今日腕につけているのは、ウブロの腕時計。


ウブロ、スイカ、クルーザー。
これらが揃うと、大人の男も一瞬で “ワンパク”になるのかもしれない。


勝手にそんなことを考えていると可笑しくなってきて、私は誰にも気づかれないよう小さく笑った。

彼を見ていると、理想の自分と現実の自分の違いに、この世の終わりのように落ち込んでいた自分がバカらしく思えてきた。


“29歳だからこうあるべき”なんて、考えるだけ無駄なのかもしれない。

いくつになっても、大好きなスイカは大きな口を開けて青空の下で食べたいし、毎晩夜中までシャンパンを飲んでいたい。

一生懸命仕事して、一生懸命恋を探す。それは私にとって、十分に“地に足つけた生活”だ。

あの“ワンパク”な彼だって、きっとそうだ。一見派手でも、その実は人に見せていないだけできちんとした毎日を送っているはず。そうじゃないと、スイカをあんなに楽しく美味しそうに食べられないんじゃないかと思う。

上質と無邪気を共存させられる彼。どちらかに偏らず、自分にあったものを選んで、自分を満足させる。

ーこれが“品格”なのかな。

彼から自然と滲みでる雰囲気を感じながら、ぼんやりと思った。

ー品格のある女性になりたい。

“品格ある女性”について考え始めたら、来月の誕生日が少しだけ楽しみに思えてきたから不思議だ。


▶Next:8月6日 火曜更新予定
西麻布のBarで出会った、港区モード。


今週の港区モード:「ウブロの『ビッグ・バン』」

ここ数年、破竹の勢いで躍進を続けるウブロを代表するモデルのひとつ『ビッグ・バン』。

そのスピリットを色濃く受け継ぎながらも、革新的なカーボン製トノー型ケースを採用したのが、この『スピリット オブ ビッグ・バン トゥールビヨン カーボンブラック』だ。

時計【手巻き、カーボンケース(42㎜)、ラバーストラップ、3気圧防水、世界限定100本】¥10,030,000〈ウブロ/LVMHウォッチ・ジュエリー ジャパン ウブロ03-5635-7055〉、サングラス¥40,000〈オリバー・ゴールドスミス/ブリンク外苑前03-5775-7525〉、その他/スタイリスト私物


姿勢差による重力の影響を解消する複雑機構トゥールビヨンを搭載したモデルを腕に、クルーザーの上でスイカに食らいつく。奔放に生きている男が、いつも以上にはしゃいでしまう瞬間なのだ。

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