年間7,000万食!世界800店舗!熊本ラーメンとその代表『味千ラーメン』の成功の秘訣
熊本ラーメンを代表する『味千ラーメン』の今、昔、未来
豚骨ラーメンの発祥・久留米ラーメンにインスパイアされ生まれた熊本ラーメン。
その源流のひとつ、『味千ラーメン』は創業50周年を迎え、現在なんと世界14ヵ国800超店舗を展開。
ローカルフードであった熊本ラーメンが、世界に羽ばたいた軌跡に迫る。
福岡が席巻していた豚骨ラーメン界に、革命を起こす
熊本ラーメンの歴史は、不景気に打ちひしがれる3人の青年が、とあるラーメン店を訪れたことから始まる。
1953年、当時の人気店であった久留米市のラーメン店『三九』。
その支店が熊本県玉名市にできたという噂を聞きつけ、『味千ラーメン』の創始者である劉壇祥(後の重光孝治)氏と友人ふたりはその店を訪れた。
白濁した豚骨スープという未知の味に深く感銘し、活路を見出した3人は、それぞれにラーメン店を開くこととなる。
それが新横浜にも店舗を持つ『こむらさき』や一子相伝の『松葉軒』、そして1968年に重光孝治氏が立ち上げた『味千ラーメン』である。
この3店が、当時豚骨ラーメン界を席巻していた久留米ラーメンや博多ラーメンとは一線を画する、熊本オリジナルのラーメン文化を打ち立てたのだ。
その最大の特徴は、マー油(にんにくを揚げた油)とフライドガーリックを使うこと。
これこそ、孝治氏のアイデアによるものだった。
いまや世界800超店舗。14ヵ国で愛される存在に
わずか7坪で始まった『味千ラーメン』。
最初はメニューをラーメンひとつに絞り、集中して味の研究を重ねていったという。
製麺所に注文していた麺も、目指す味を求め開店1年程で自家製麺の開発へと踏み切る。
小さな倉庫を借りて製麺機を導入し、納得のいく自家製麺を完成させた。
品質へのこだわりを地道に積み重ねることで、長く愛される味を作り上げた。
現在代表を務める2代目の重光克昭氏はこう振り返る。
「マー油を考えたのは今までにない特徴を付け加えようということからと聞いています。
元になったのは父の故郷・台湾の料理なんですよ」。
もともと、台湾からの留学生だった先代孝治氏。
生まれ育った高雄の麺料理に使われていた調味油をヒントに、いまや日本のスーパーにも並ぶ程ポピュラーになったマー油を作り上げたそう。
油にじっくりとにんにくの旨みと香りを移し、何種もの野菜をブレンドした“魔法の油”。
これを略してマー油と呼ぶようになる。
店が成功を収めると、孝治氏を次につき動かしたのは「このラーメンを世界へ広めたい」という強い思いだった。
1996年に中国・香港へ進出したのをきっかけに、世界への快進撃が始まる。
現地では行列ができるほどの人気を得て、やがて中国各地へと広がりをみせた。
現在ではなんと691店舗が中国各地に点在。
出汁を使用しない中国のラーメンとは異なる、”日本のラーメン“を知らしめた。
このほかシンガポールやタイなどの東南アジア、北米ではNYをはじめ米国15店舗とカナダ、そして欧州ではイタリアなど、世界14ヵ国・800超店舗をグルーバルに展開する。
こうして年間およそ7,000万食が世界中で食べられるようになった。
その成功の背景にあるのは、味のクオリティを絶対に落とさないという信念。
熟練した職人を育て、世界のどの国にあってもスープの配合や製法、マー油作りは本店の味を寸分違えずに作り出すことに努めている。
世界1,000店舗に向け、先代から引き継いだ思い
先代がこだわった本物の味と心を守り、育てることを使命と考える、克昭氏は語る。
「留学生として来日した父は、日本で多くの方にお世話になりました。
だから人との縁をとても大切に考えています。
”先義後利“
まず人との繋がり、気持ちがあって、後から利益がついてくる。
最初から利益ばかり求めていたら、今の成功は無かったでしょう」
そして「世界中でより多くの人に美味しいラーメンを食べてもらいたい」という心が、同店発展の原動力となっている。
『味千ラーメン』という名には、千の仲間を作りたいという先代の願いがこもっているのだ。
だから目標は1,000軒。2019年にはフィンランドやパナマにも進出した。
熊本で生まれた『味千ラーメン』は、美味しく親しみやすい味で世界を繋げている。
今年8月中旬には、上海で新メニューの試食会を兼ねた発表会が行われるなど、その勢いは留まることを知らない。
『味千ラーメン 本店』
1968年オープン、世界の『味千ラーメン』の総本山。
当初7坪だったが、同店の発展とともに徐々に拡大し現在の大きさに。
熊本県庁正門横に位置し、連日地元の人や観光客で賑わう。
■SHOP DATA
住所:熊本県熊本市中央区水前寺6-20-24
TEL:096-384-4433
営業時間:11:00~LO21:30
定休日:1/1、その他不定休
席数:60席
Photos/Ryoma Yagi, Text/Jun Okamoto