「誠実=結婚向き」は幻想だった…?彼の部屋で見てしまった、マジメ男の本性

哲也との出会いは、奈津美が勤める出版社の先輩の紹介だった。

「とにかく誠実な人。チャラい男は勘弁、って言い続けていたら、ある日先輩が『紹介したい人がいる』と声をかけてくれたんです。なんでも、先輩の大学時代の同級生で、結婚を前提に彼女を探している男がいるからって」

どういう人なのか尋ねてみると先輩は、「とりたててカッコイイと言う訳でもないけど、悪くはないビジュアル。正直別に面白くないかもしれないけど、穏やかだし、大手通信会社に勤めているから安定はしてる。30歳まで実家にいて浪費もしないからかなり貯蓄もあるはず」とのことだった。

そして何より先輩は、その彼・杉浦哲也について、「誠実さだけは保証する」と太鼓判を押してくれたと言う。

先輩は学生時代から哲也を知っているが、大学4年間、彼はたった一人の女性とだけ付き合っていたという。そして社会人になりその彼女と別れてからは、浮いた噂を一切聞いていないということだった。

「ぜひ紹介してください、と即答しました。彼氏や結婚相手に求めるのは、何より誠実であることですから。見た目なんて生理的にOKならいいし、面白い人は友達にいればいい。東京では、誠実な男こそレアですからね」

そうして、先輩を通して連絡先を交換し、翌週には二人で会うことになった。

「私の家の近所、神楽坂のイタリアンを予約してくれてました。ここだけの話、ド定番の店選びでセンスは感じなかったけど、慣れていないのだから仕方ない。むしろ信用できると前向きに考えていました」

そして実際、奈津美は哲也のことを初対面で気に入ったという。

「とても感じの良い人でした。元カレなんて、初対面から“奈津美はさぁ”なんて呼び捨てにしてきたんですが、哲也は終始“田代さん”でした。口下手で気の利いたことは言えないけど、そのぶん余計なことも言わない。私がずっと喋ってる感じだったけど、ニコニコと聞いてくれていたし」

好感を抱いたのは哲也も同じだったようで、別れたあと、お礼LINEのやり取りの中で次のデートに誘われた。

「付き合って欲しいと言われたのは、3回目のデートの帰り道だったかな。事件も起きず、喧嘩もない、とても平和な付き合いでした。彼のほうが当初から結婚を意識していたこともあって、自然と結婚の話なんかも出始めました。…ただ、関係が深まり彼の家で過ごす時間が増えてきた頃、“あれ…?”と思うことが出てきてしまったんです」

「この人、何で怒ってるの…?」


「付き合って半年が経つ頃、彼の仕事が急に忙しくなって。なかなか会えない日が続いたから、仕事のあと彼の家に行きたいって言ってみたんです。食事を作って待っててあげるって。彼、すごく喜んで合鍵まで渡してくれたんですが…」

そこまで話すと奈津美は言葉を詰まらせ、苦しそうに息を吐いた。

「23時過ぎだったかな。ようやく帰ってきたんだけど、“ただいま”の一言もないんです。無言でリビングに入ってきて…料理を作って待っていた私に、彼、何て言ったと思います?」

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