三茶ラブストーリー：彼氏アリの女の子から、突然の呼び出し。34歳の男が、動揺を隠せなかった出来事

この街で、君を見つめる。武弘の決意

「いやぁ、6年も付き合ってたのに終わる時はあっけないもんだね。さ、お腹が破裂するまで食べるぞー！」

コーヒーテーブルに料理を山ほど並べながら、志保はまるで面白い冗談でも言ったかのように笑う。

突然の激白に、気の利いた言葉が浮かばない。武弘は、「そっか」と相槌を打つことしかできなかった。

チンジャオロースをかきこみながらハイボールを飲む志保を、横目で見る。

緊張のあまり今の今まで顔をしっかり見ていなかったが、天井のダウンライトに照らされる志保の鼻先が、春だというのに真冬の子供のように赤らんでいた。

―泣いてたのか？いつも底抜けに笑っている志保ちゃんが？

全く想像がつかない。だが、目の前でいつものように振る舞う志保の小さな体が悲しみで満ちていると思うと、その痛々しさに武弘は胸を突かれるような思いがした。

その思いに駆られるように、食事を終えて箸を置いた志保の肩へ、半ば無意識に手を伸ばす。

だがその時、志保がくるりとこっちを向いた。

「今日は突然押しかけてごめんね。一人でいると泣いちゃいそうだったから助かったよ。武弘くんは明日も会社だし、そろそろ失礼しなきゃね」

微笑む志保を前に、武弘は伸ばしかけた手を下ろす。この信頼を裏切ったら、志保をもっと傷つけてしまうだろう。武弘は、それが一番恐ろしかった。

だが、やはりこのまま志保を一人にしたくない。「もっと居てもいいよ」と声をかけたかったが、この部屋に引き止めるわけにもいかないのが歯がゆい。

返事を考えあぐねている武弘の視界に、ふと青っぽい箱がチラつく。先ほど観かけて出しっ放しにしていた、ブルーレイのパッケージだ。武弘はハッとして、立ち上がろうとする志保に話しかけた。

「志保ちゃん、この映画好き？」

突然飛び出した場違いなセリフに、志保が顔をキョトンとさせる。

「俺、呼び出される前にちょうど観ようとしてたんだよ。よかったら下のシアタールームでこれから一緒にどうかな？一人だとなかなかシアタールーム使う機会もなくてさ。爆音で観ようよ！」

「ええー、なにそれ凄い！でも、もう23時過ぎだけど、今から観て武弘くんは明日大丈夫なの？」

「会社は渋谷だから、通勤時間20分だよ。ギリギリまで寝れば大丈夫。じゃ、決まりだな！」

武弘と志保は顔を見合わせると、いたずらな子供のようにクスクスと笑った。

今まで使う機会がなかったシアタールームだが、武弘はこの時ほど 『ザ・パークハビオ 三軒茶屋』に住んでいて良かったと思ったことはなかった。

映画を観終えた志保は26時頃、「すっかり元気出た！」といつもの笑顔で帰っていった。きっとあの後スーパーに寄って、今頃は朝食を作っているのだろう。

◆

洗面台の広い三面鏡を見ながら朝の身支度を整える武弘は、自身の目を見つめる。そして、やっと認めることにした。

―やっぱり、彼女が好きだ。

認めてしまったことで、胸の苦しさは強まったように感じる。

昨夜のシアタールームの暗闇と爆音の中で志保が涙を流していたのは、ヒーローたちの奮闘が理由ではないはずだ。きっとまだ、志保の心に自分が入れる隙はない。

だが武弘は苦しさと同時に、春風のような心の高揚感を覚えていた。

どれだけ時間がかかるか分からない。だけど、どれだけ時間がかかっても、彼女を振り向かせたい。

こんなに前向きな気分になれるのは、久しぶりのことなのだ。

―すぐに出て行くつもりだった三軒茶屋も、簡単には離れられないくらい好きな街になっている。…長期戦は、望むところだ。

今度の週末は、志保をどこへ誘おうか。武弘は頭の中に三軒茶屋にひしめく数々の美味しい店を思い浮かべる。いつかは志保の作った朝食を一緒に食べたいと、そう願いながら。

ーFin.

武弘が住んでいる『ザ・パークハビオ三軒茶屋』の詳細はこちら！

武弘が利用してる『クラス』の詳細はこちら！

■衣装協力：P1.P2男性 ニット￥8,900 パンツ￥8,900（ジェイフェリー / リファクトリィ03-5524-3725）P2.女性 ワンピース￥88,000（ランバン コレクション / ランバン コレクション03-5491-8860）P3.ジャケット￥14,800 パンツ￥8,500（GLOSTER / ノーリーズ03-3564-2054）ネクタイ￥13,000 ベルト￥13,000（ムッシュ ニコル / ニコル（プレスルーム) 03-5778-5445） ※シャツは本人私物