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  • 三茶ラブストーリー Vol.1

    三茶ラブストーリー:傷つくだけの恋ならしたくない。34歳独身男の決意が揺らぐ、三軒茶屋の夜

    都会と自然。憧れと親しみ。新しさと懐かしさ…。

    三軒茶屋という街には、まるで東京の全てが詰め込まれているようだ。

    「この街でなら穏やかに暮らすことができる」

    そう思っていたはずなのに…こんなに胸が苦しいのは何故なんだろう。

    恋に傷ついた久保田武弘(34歳・独身)が、三軒茶屋で手にするものとは?


    独り寝には広すぎるクイーンサイズのベッドに、昼の太陽が燦々と差し込む。

    眠い目を擦りながら、武弘は枕元のスマホで時刻を確認した。

    午前11時前。土曜日とはいえ少し寝すぎてしまったようだ。今日は何をして過ごそうか?あくびをしながら考える。

    適当なカフェで美味しいコーヒーを飲みながら読書をしようか。それとも、女友達を誘ってフレンチ『デュ バリー』あたりで遅めのランチもいいかもしれない。

    大抵のものが揃うここ三軒茶屋の街では、寝坊した休日を充実させるためのアイディアは尽きない。武弘はカーテンを開けると、あれこれと想像を巡らせながら思い切り伸びをした。

    武弘が三軒茶屋に引っ越してきたのは、1年前の春。当時、泥仕合のような別れ話に疲れ果てていた武弘は、同棲解消を機に30歳から3年間住み続けた恵比寿を出ることに決めたのだった。

    モデルの元彼女との、見栄で固めたような付き合いの末に思ったのは、「自分らしく、肩の力を抜いて生活したい」ということ。オシャレでありながら親しみやすい雰囲気のある三軒茶屋は、そんな気分にピッタリなように思えた。

    心が癒えるまでの一時的な休息のつもりで引っ越してきたため、家具も新たに購入せず『クラス』のレンタルで揃えている。しかし、利便性もかなり高く渋谷の職場にも近い三軒茶屋は、予想以上に居心地が良い。あっという間に1年の月日が経ってしまった。

    ―この街にもずいぶん詳しくなった。俺もそろそろ「三茶のプロ」を名乗っても良いころかな。

    秘密基地を持つ少年のような気持ちが、武弘の胸をくすぐる。

    武弘は、一人の気ままな生活に心から満足していた。

    この日の夜、“彼女”と出会うまでは…。

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