あの子が嫌い Vol.4

「結婚するつもりはない」。恋人の朝帰りを待つ女に、美女と一夜を過ごした男がつきつける冷酷な真実

上京してからというもの、私の人生はパッとしない。

地元では「かわいいリカちゃん」と呼ばれ、散々もてはやされてきたけれど。

私程度の女なら、この街にくさるほど居るー。

地元を飛び出し、憧れの人気女性誌への入社を果たした秋吉りか子(29)は、自分の"無個性"にウンザリする日々を過ごしていた。

そんなある日、中途で採用された一人の女が、りか子の前に現れる。ムッチリとしたスタイルに、やたら身振り手振りの大きな帰国子女。

りか子が虎視眈々と狙っていたポジションを華麗にかっさらっていき、思わず嫌悪感を抱くがー。

まるで正反対の二人の女が育む、奇妙なオトナの友情物語。


人気女性誌「SPERARE(スペラーレ)」で編集長の秘書として働く秋吉りか子。りか子は編集部のポジションを狙っていたが、“小阪アンナ”と名乗るぽっちゃり女子に奪われてしまう。

更に、2年付き合った彼氏・修一に結婚を匂わせれば「面倒」と言われ、ますます追い詰められていく。

そんな中、アンナからのSOSに思わず手を貸してしまったりか子だったが―。


—終電、逃しちゃったじゃない…。

タクシーに揺られながら、私は声に出さず悪態をつく。

小阪アンナの手伝いをようやく終えたときには、とっくに終電の時間を過ぎていた。それでもはじめは徹夜も覚悟していたから、予想外に短時間で終えたことにはホッとした。

けれど、アンナのコスメに関する資料を見て、その企画力に圧倒されてしまったという事実は、私にとって屈辱以外の何物でもなかった。

彼女は確かにぽっちゃり体型だけれど、着こなしやメイクはいつだってきちんと彼女に馴染んでいる。個性に合うものを直感的に選ぶスキルが優れているのだろう。

私は、あの子が嫌いだ。

だけど、あの子みたいになれたなら…。そんなことを、彼女の企画書を修正しながら思ってしまったのだ。

企画書の隅に書かれた"コンプレックスはアイデンティティへ!"というアンナの走り書きが、今も心の奥に突き刺さっている。

もしもあの時、アンナではなく私が編集部に異動できたとして、これ以上の企画を出せただろうか?

…きっとそんな事は出来なかったはずだ。

今日手伝った作業にしても、私がやったことと言えば、アンナの伝えたいことを汲み取り、正確な日本語として資料に落とし込むだけ。

私はギュッとコートの裾を握りしめる。


昔からそうなのだ。大学受験にしても、就職活動にしても、私はいつだって募集要項や、傾向や対策を額面通りに受け取りそのとおりに行動してきた。

大晦日の夜、美香が私に言った「真面目でエライよね」という言葉が、いまさら心の奥に重くのしかかる。

真面目で面白みに欠けて、応用のきかない、頭でっかちの秋吉りか子。

小阪アンナの隣にいると、そんな自分が一層際立ってしまう。これ以上は耐えられないと、思わずキツイ言葉を投げつけてしまった。

言い過ぎたかもしれない、と、心の隅で感じてはいたが、あの天真爛漫な笑顔を思い出すと腹が立って仕方がなかった。

ーもうちょっと落ち込みなさいよ。何が”飲みに行かない?”よ…。

ちらつくアンナの笑顔を振り切るようにタクシーを降りると、真冬のキンと冷えた夜風が頬を撫でる。

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