
女の嘘:「私、一人じゃ生きていけない…」男が簡単に騙される“子鹿女”の裏の顔
彼の目に映る、偽物の私
「ただいまー」
佐江と別れたあと、私は半同棲中の彼・翔太(28歳)の家に戻った。
総合商社に勤める彼は乃木坂にマンションを借りているので、夜に予定がある日は翔太の家に泊まらせてもらうのが常だ(私の家は学芸大学にあるため、ちょっと遠い)。
「ねぇ翔太、聞いて!今日ね、佐江と会ってたんだけど…」
翔太はソファにうつ伏せで寝転びながら、何やら動画を見ていたけれど、私はお構いなしに甘えたそぶりで抱きつくと、彼のスマホを取り上げる。
しかし翔太は私のワガママなど慣れたもの。「もー、見てたのに」と膨れながらも、その目はまったく怒っていない。
「だって大変だったの。佐江の彼がね…」
ソファで彼に抱きついたまま、先ほど佐江から聞いた話を今度は私が翔太に話す。
その言葉尻は佐江が話したものより随分と乱暴になっていたが、それは私のフィルターを通してしまっているから仕方がない。
興奮気味にまくしたてる私の話を、翔太は「うん」とか「それで?」とか言いながら穏やかに聞いてくれる。
翔太は本当に優しい男で、私は彼のこういうところが大好きなのだ。…まっすぐで、誰のことも疑わない素直なところが。
「…ひどいと思わない?」
ようやくすべてを語り終えると、私は同意を促すべく彼に問いかける。
しかしそんな私に、翔太は突然冷たい眼差しを向けてきた。
「奈美はどうする?…もし俺が、別れようって言ったら」
「…え?」
ふいにそんなことを聞かれ戸惑ったが、私はその刹那、条件反射の如く泣き顔を浮かべた。
「そんな…そんなこと言わないで。私は翔太がいないとダメだって、生きていけないって、知ってるでしょ?」
そう言いながら、私は自らの言葉に感極まってしまったようで、知らぬ間にほろり、と涙まで溢れた。
「ちょ…泣かないで、冗談だよ。そうだよな、奈美は一人じゃ虫も殺せないもんなぁ。大丈夫だよ、俺がそばにいてやるから」
翔太は慌てた様子で私を抱き寄せると、「冗談に決まってるだろ」と実に満足そうな様子で笑った。
そんな彼の腕の中で私は、自分が翔太の目に“子鹿”として映っていることを再確認し、ホッと胸をなでおろす。
愛してくれるなら、優しくしてくれるなら、そう思っていてくれればいい。
それは...偽物の私だけれど。
▶NEXT:11月19日 月曜更新予定
子鹿女・奈美の彼氏、翔太を大いに混乱させた、"女の嘘”とは...?
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