Q1:久しぶりの再会で、女はどこを見ている?
再会した日は散々な言われようだったが、僕の頭から、どうしても美香の顔が離れなかった。
―美香、可愛かったなぁ・・・。
テレビ局で働いているいま、芸能人に会うことも日常茶飯事だし、局内ではミス・キャンパス出身の綺麗なアナウンサーもいる。
しかしどんな女性も、美香にはかなわない。やはり学生時代に出会った子は、特別な存在なのだろうか。
―そうだ、同窓会っていうテイで誘えば、イケるかも!
僕もテレビ局に入って、それなりの度胸がついているようだ(先輩たちが女の子たちを口説いて玉砕しているのを常日頃見ているせいかもしれない)。
久しぶりに、ゼミの皆で集まろうと美香を誘ってみることにした。
—今度、皆で同窓会しようよ!
すると彼女も同窓会ならば良いと判断したのか、すんなりと誘いに乗ってくれた。返事はOKスタンプひとつではあったが、来てくれるならばそれで良い(と自分に言い聞かせる)。
◆
そして迎えた、同窓会当日―。
店は、先輩に教えてもらった梅田の『鯛之鯛』にした。他ではあまり聞かない“熟成魚”が有名らしく、女性たちは着いた途端、興味津々といった様子で店内を見渡していた。
「美香、この間は偶然だったね~。飲み物、何にする?」
美香が来た途端、僕はそそくさと彼女の隣の席を確保した。
「あ・・ノブ。今日は幹事ありがと」
もう冬が迫っているのに、ノースリーブのブラウスを着ている美香は、やはり可愛い。
「ハイボールにしたいんだけど、何がある?」
じゃあ、と僕はドリンクメニューをさして答えた。
「『ジムビームハイボール』があるよ。」
「ジムビーム?何のお酒?」
「アメリカ生まれの、世界で一番売れているバーボンだよ。後味がすっきりしてて、女の子でものみやすいと思う」
僕は、この間先輩に教えてもらった「ジムビームハイボール」を勧めた。
爽やかな味わいでお酒がすすむので、久しぶりの再会で盛り上がりたいときにぴったりだ。美香は少し緊張しているように見えたから、気分を上げて欲しかったのだ。
「じゃあ、わたしもそれにしよっかな」
そう言って美香は、僕と同じ「ジムビームハイボール」を頼んだ。
「ではでは、再会に、かんぱ〜い!」
学生時代から目立っていた、サークルいちのモテ男・亮太の掛け声で楽しい宴が始まった。
最初は少しぎこちなかったものの、次第に緊張がほどけ、昔話に一気に花が咲き始める。美香も、ずいぶん楽しそうだった。
「飲み物、大丈夫?」
今日こそは美香にいいところを見せようと意気込んでいたが、仕事のノリで、周りがつい気になって動き回ってしまう。
寒そうにしていた美香のために部屋の温度を上げたりジャケットを貸したり、ゆっくり話しこむこともなく、まるでしもべのように働く。
会社では当たり前の下働きだが、これをプライベートでもやってしまうから、“真面目ないい人”枠から抜け出せないのかもしれない。
そんなことを考えながら、ふと横を見ると、肝心の美香は亮太とちょっと肩を寄せ合いながら楽しそうに話している。
—ちょっと、あの二人距離近くないか!?
結局カッコいいところを全く見せられないまま、同窓会は終わってしまった。
◆
「美香、今度食事いかない?いつ空いてる?って危ないから中歩きな」
店を出て、車道側を歩く美香に歩み寄りながら、僕はデートの約束をしようと試みる。
「んー・・・?来週木曜だったらいいよ。でも翌朝早いから1軒だけね」
約束はとりつけたものの、デート前から2軒目がないと念押しされてしまった。
—あ〜あ。僕も亮太みたいなモテ男だったらいいのに・・・
皆が楽しそうに歩く後ろ姿を見ながら、冷たい風に吹かれて僕は一人帰路に着いた。