美しいひと Vol.7

「整形までしたのに…」初恋の彼に2度目の失恋。歪んでいく、整形美女の純粋な思い

二度目の失恋


「あ、麗華。こっち」

大きく息を吸った後で、私は店内へと足を踏み入れた。

恵美がいち早く私を見つけて手招きしてくれたが、私の目は彼女を通り越し、その奥にいる平塚くんだけを捉えていた。

彼がこちらを振り向くタイミングで、私は瞬時に瞳に力を入れ、少し首をかしげて口角をキュッとあげる。

整形をして“美しい女”の仲間入りをしてから、私はメイクだけでなく、こういったモテ仕草なるものも研究を重ねてきた。

その甲斐あって今では、自分が最も魅力的に見える表情を、瞬時に作ることができる。

「美咲さん、この前はどうも。ほんとすごい偶然だったよね」

そんな私とは対照的に、平塚くんはまったく飾らない、自然な笑顔で語りかけてくる。そして、昔から全く変わらないその優しい表情は、私の胸をどうしようもなくキュンとさせるのだった。

「…ほんと、びっくり」

そう答えながら、私は恵美にちらりと目をやる。彼女は、私と平塚くんの再会が「すごい偶然」なんかではないことを知っているからだ。

だが恵美が「わかってる」と目で合図をしてくれたので、私は安心して席に着いた。

平塚くんの、隣。そこに座るよう恵美が促してくれたのだ。


−なんて、幸せなんだろう。

私はまさに、夢見心地でそこにいた。

彼の隣にいるだけで、平塚くんが何か話すだけで、まるで骨にまで響くように身体中がじんとして、とろけていく。

彼が私の方に体を傾け、優しく笑いかけてくれる時などは、胸がドキドキと高鳴り天にも昇るような思いだった。

…もしも平塚くんの彼女になれたら。こんな幸せを、毎日味わえるのだろうか。

そんな夢のような妄想に、私がひとり頬を赤くした時だった。

「美咲さん、ジュエリーブランドの銀座ブティックに勤めてるんだって?さっき、大山さんから色々聞いてたんだ」

ふいに平塚くんから問いかけられ、私は慌ててこくり、と頷く。

すると彼は、私がずっと愛してやまない柔らかな笑顔を浮かべたまま…私の心をズタズタに切り裂く言葉を口にしたのだ。

「実は俺の彼女も、美咲さんと同じジュエリーブランドで働いてるんだ。広報部の岸さゆりって知らないかな?」

−え、今…なんて?

俺の、彼女…?

そっか、彼女、いたのか。

真っ白になった頭で、私はぼんやりと、ようやくそれだけを理解した。

いや、むしろ冷静に考えれば、平塚くんほどの男に彼女がいない方がおかしい。私がひとりで勝手に初恋の人との再会に浮かれ、お花畑な妄想を繰り広げていただけで。

「…し、知らない」

どうにか呟いた声は、不本意ながら掠れてしまった。

岸さゆり。平塚くんの彼女は、岸さゆりというらしい。

一体、どんな女なのか。どれほどの美人なのか。知りたい。顔が見たい。

私の頭の中は、“岸さゆり”という見ず知らずの女のことでいっぱいになった。

悲しくて、悔しくて、胸がちぎれそうになる。そうしてどうしようもなくなった時、突如、今度はふつふつと怒りが湧いてきた。

せっかく美しくなったのに、どうして。

整形までして、こんなにも努力して、やっとやっと、あなたに会えたのに。

…そして私は、無意識のうちに嘘を口走っていた。

「私、もうそろそろ行かなくちゃ。…約束してるの、彼氏と。外銀勤めで、この近くに住んでるのよ」

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