キャリアと引き換えに、女の幸せを諦めた35歳。独身女に奇跡が訪れた夜

恋に落ちる瞬間

“じゃあ、今年もクリスマスはハワイで決まりね！”

遥とのLINEを“クリスマス海外逃亡”の約束で締めくくった奈央は、再び仲通りを一人歩き出した…その時である。

「奈央さん！」

聞き覚えのある声に振り返ると、健太郎が無邪気な笑顔で走り寄ってきた。

「今帰りですか？今年もイルミネーション始まったんですね〜」

すれ違う恋人たちにぶつからぬよう奈央を庇いながら歩く健太郎は、意外にも頼もしく映る。相槌を打つのに彼を見上げたら、ふいに男の匂いが漂って、奈央は柄にもなくどぎまぎとしてしまった。

「奈央さん、僕たちもクリスマスツリー見に行きましょうよ！この後、予定あります？」

いきなりそんな風に誘われ、奈央は「え！？予定はないけど…いいよ、そんなの」などと口ごもる。しかし健太郎は「予定はないけど」以降の奈央の反応を、まるで聞いていない様子だった。

「いいから、行きましょう」

丸ビルマルキューブのクリスマスツリーなら、毎年見ている。

丸ビルには食事もしに来るし、買い物にも来る。そのたびに横目で見ていたはずだ。

しかし今、恋人たちに紛れ、こうして健太郎と並んで見上げるツリーは…どういうわけか、初めての景色に思えた。

ワクワクする。ドキドキする。

35歳だからとか、恋愛に向かないとか、彼が年下だとか。そんなことも、思い出さないくらいに。

〜♬

不意に、お馴染みのクリスマスソング「恋人がサンタクロース」が流れてきて、奈央は胸が高鳴るのを感じた。

クリスマスなんて私には関係ない。ここ最近はそんな風に自分に言い聞かせてきたはずだったのに、今は、この瞬間がとても愛おしい。

そっと健太郎の顔を見上げると、彼と目が合って、二人は思わず笑い合う。

それはなんだかとても心温まる瞬間で、健太郎の柔らかい笑顔が、奈央の頭にいつまでも残った。

◆

「新しくできた二重橋スクエアにも行ってみません？…奈央さんを連れて行きたいところがあるんです」

健太郎に促され、11月8日にオープンしたばかりの新スポットにある『Morton’s The Steakhouse Marunouchi』でディナーをすることになった。

ーこんな素敵なお店…。

近場で軽く食事をする程度だと思っていた奈央は、戸惑いを覚えた。しかし健太郎はキッパリと言ったのだった。

「オープンしたときから、ここには奈央さんと来ようって決めていたんです」

店に入ると、店内からもイルミネーションを見ることができ、奈央の目には世界が輝いているように映る。浮かれている証拠、かもしれない。

向き合うのが怖い。傷つくのが怖い。

しかしそうやって自分の気持ちをごまかし続けるのも、もう限界だった。

なぜなら健太郎が、純粋な、まっすぐな瞳で奈央を見つめてきたから。

「奈央さん、年下は嫌いですか…？」

その瞬間、まるで稲妻に打たれたかのように、奈央は心を射抜かれてしまったのだ。

「僕、奈央さんが好きです。責任感があって、仕事もできてかっこいいのに、女性らしい気遣いもあって。そんな奈央さんにずっと憧れていたんです。だけど…よかったら僕にだけは、弱いところも見せて欲しい。...僕と、付き合ってもらえませんか？」

それはあまりに突然の告白で、奈央は目を丸くして息を飲む。

「今年のクリスマスは、僕と一緒に過ごしましょう」

そう言葉を続ける健太郎に小さく、ゆっくりと頷きながら、奈央は心の内で思うのだった。

もう一度だけ、奇跡を信じてみよう、と。

「...ありがとう。私も、健太郎が好きよ」

Fin.


奈央に恋の奇跡を運んできてくれた「Marunouchi Bright Christmas 2018」はこちら

■衣装協力：【女性】コート¥150,000、ニット¥13,000、シャツ¥21,000、パンツ¥25,000、マフラー¥26,000〈すべてガリャルダガランテ／ガリャルダガランテ03-5220-7048〉バッグ¥32,000〈ANAYI／essence of ANAYI LUMIEA03-5926-5471〉その他はスタイリスト私物【男性】コート¥74,000〈エストネーション／エストネーション有楽町店0120-503-971〉スーツ¥63,000、タイ¥7,500〈ともにアーバンリサーチ テーラー〉マフラー¥10,000〈アーバンリサーチ／すべてアーバンリサーチ TOKYO03-5288-8581〉バッグ¥98,000〈フェリージ／フェリージ 丸の内店03-5220-5253〉その他はスタイリスト私物